Harukamy's Memoranda

ゆずソフトとパティスリーの騒動の話

概要

アダルトゲームメーカーであるゆずソフト(株式会社ユノスのソフトウェアブランド)の最新作「喫茶ステラと死神の蝶」において、その舞台となる喫茶店の外観に神戸のパティスリー、「パティシエ・エス・コヤマ」を模したものが利用されたのだが、これがファンが多数おしかけたことにより発覚、パティスリー側が抗議を検討、という話である。

結局、これに関する発言は最後まで互い(どちらを擁護する立場であるか)に感情的になっていて全く非本質な噛み合わない発言ばかりが積み重なることになった。

前提

ゆずソフトはアダルトゲームメーカーとしてもかなり特殊であり、単純に「アダルトゲーム」というくくりをするのが難しい。

アダルトゲームというのはポルノグラフィ色の強い作品もあれば、物語色の強い(小説や映画と同様な)作品もある。 この幅は相当に広く、アダルトビデオにおけるジャンルの幅というレベルではなく、アダルトビデオでも表現不可能なレベルのポルノグラフィである作品から、感動的な恋愛小説のような作品まで様々である、ということだ。

そんなアダルトゲームの世界において、ゆずソフトは「めちゃくちゃ売れている」ブランドである。

正確なデータがないので「らしい」の話をするとゆずソフトは5万本とか売っているらしい。 なんらかの要因による「ヒット作」を別とするならば、「1万本売る」というのは安定して利益の出る「売れてるメーカー」になるようだ。このあたりはコンシューマーゲームとあまり事情は変わらないようである。 逆に言えば、「1万本なんてとても出ない」というメーカーは常に危うい。

そして、単にソフトウェアが売れているだけでなく人気も知名度も高く、総合的に「売れる」メーカーであり、かなり潤沢な資金があるようである。 そのため、リリース間隔が1年半から2年程度と長いのも特徴的。

そして基本的に固定されたメンバーでやっており(絵やグラフィックも社員なのかもしれない)、そこまで人数は多くないにも関わらずボリュームがすごくてクオリティも高い。 とことん手が込んでいるという感じで、好悪の問題ではなく作業量とその緻密さという点において非常に驚くべきものがある。

作風としては定番の「高校生×恋愛」である(ただし、件の作品は珍しく大学生)。 それとは別に「メインストーリー」として伝奇要素を加えていることが多く、メインストーリーの過程で主人公とヒロインが恋愛に落ちる、という図式になっている。前作は伝奇ではなくスパイものだった。

メインストーリーがおまけではなくかなり重要視されているのもポイント。ただ、ヒロインとの話の中では障壁として登場してくることになるため、純粋にヒロインといちゃいちゃちゅっちゅできない、という作品でもある。 また、前述の通りボリュームがすごいので、メインストーリーを軸にしたお話(一般的な小説や映画のストーリー)に恋愛描写を猛烈に拡大したような感じになっているのも特徴的。「両方が長い」っていうのは結構珍しい。

そして、ポルノグラフィとしてもボリュームがあるのが特徴で、恋愛描写としてセックスシーンが出てくるというよりも、セックスシーンを見せる感覚になっている。だから、それも長い。 純愛作品しかやらない私の中では圧倒的に長い。また、質的にも割と違って、割り切りが強い。

以上を踏まえて、「多くの人がとても魅力的であると感じるような、著名な恋愛作品を作っているメーカー」であり、メーカーに対するファンの信頼も厚い。

だが、そもそも一般的にはアダルトゲームがどういうものであるかというのは全く知られていないし、ましてゆずソフトを知っているはずもない。 普通に考えて、アダルトビデオ同様の単純なポルノグラフィのゲームバージョンであるという理解が一般的であるのは当然ともいえる。 アダルトビデオやエロ本の方がどのようなものかずっと知られているからだ。

所感

私から見れば、「外野の問題である」としか見えない。

ゆずソフトが背景にエス・コヤマを使ったことに問題があるか、というと、背景画ということを考えると避けがたいというのが正直なところである。 もちろん、優秀なグラフィッカーに創作した背景を描かせる、という方法はあるが、現実的に考えるとそれは些か難しすぎる。メインの舞台となる場所だけにがんばってもよかった気はしないでもないが。

ではエス・コヤマの対応がおかしかったかというとそんなことはない。 品があって高級、というテイストのパティスリーに、突如として普段はこない男性客が押しかけてくる。 普段の客層はアダルトゲームなどとは一切接点のない女性がメインだろう。 そして、聞けばアダルトゲームに登場したことが理由だとし、さらには単なる客としての振る舞いを逸脱する行為に出る。

こういうことがあれば本来の客が恐怖を覚えても仕方のない状況だし、エス・コヤマが黙って許容するというのはむしろ責められるべき事態だ。 普段、マスコミが家に群がることを批判する人が、エス・コヤマの対応を批判したのだとしたら、それはダブルスタンダードにすぎる。

また、エス・コヤマの対応は恐らくは抑制的だったと思われる。 これは、どのような経緯で半分に掲載されたのかにもよる。店側が新聞にリークしたのだとしたらあまりよろしくないし、新聞が嗅ぎつけたのであれば非常に抑制的だったということになる。 これについて真実はわからないが、例えば「法的措置を検討する」というような言葉ではなく、あくまで「抗議を検討する」であったわけだし、なおかつ「発売後に使用を確認する」としている。 アダルトゲームに対して未知のものであるか、あるいは偏見があるとしたら、この時点で極めて抑制的な対応だと言える。

ベストであった、とは言い難い。 ゆずソフトは信頼されるメーカーであり、対応も非常に良いとされている。 もしエス・コヤマが直接ゆずソフトに抗議したならば、ゆずソフトはすぐに受け入れただろう。 実際、この件があってゆずソフトはかなり厳しいタイミング(下手すると発売延期もあるくらいのタイミング)であったにも関わらず背景の差し替えを行っているし、私がプレイした体験版からも削除されていた。 そして、そうした行き過ぎたアクションを控えるようゆずソフトから呼びかけるようにしていれば、無意味な対立には発展しなかっただろうと思われる。

だが、これはゆずソフトについて知っている人間から見た感覚であり、アダルトビデオメーカーなどでは一般の人から関わるのが怖いと思うような人物が多いし、アダルトゲームメーカーの人間も、胡乱だったり粗暴だったりする人物が集っているところは結構多い。 事実そうであるくらいなのだから、事前に直接抗議、ということは難しいだろう。

そして、問題を起こしたのは誰なのか、といえば、店に迷惑をかけたファンである。 今回の件も、「アダルトゲームに使われた」という話ではなく、「それによって本来の客に迷惑がかかった」という点に対する抗議なのであるし、反省すべきはそうした行為に及んだファンであるはずだ。

ところが、アダルトゲームに関わるファンの中から、ファンの行動を咎めたり、反省を促す声はほとんど上がらず、偏見だなんだと声を荒げるばかりである。 これは、私から見ても「怖い人たちだな」と感じるし、そんな「怖い人たち」が押しかけたら怖いに決まっているだろう、と思う。

結局、当事者としてはお互いの無理解によることに起因しており、ベストではなかったのだが、立場の異なる者同士でちゃんと折り合えるようにしたのだし、大人としてあるべき行動をとったと言える。

そして、それを引き起こしたファン自身は、果たしてどう思っているのだろうか。

Wrote on:
2020-01-17

No comments avilable yet...

Add comment...