序
ミアカフェというメイドカフェが客に対して努力が足りないと発言して炎上しているらしいのだけれど、どうも「おかしい」という判断は少なくともできる状況、と理解しているけれど、ちょっとそれはおいといて…の話をしよう。
まず前提としていくつか話しておくべき情報がある。
私は最近結構ガールズバーに行っている1。 あと、キャバクラも一応行ったことがある2。
最も私としては元カノがそうしたところのキャストだった、という結構多い例にはじまり、どちらかというと舞台裏への関わりのほうがずっと多いのだけれど。
そして秋葉原のガールズバーにも行ったことがある。
一方、メイドカフェは、私は「9割9分カフェバーであってメイドカフェ要素がむしろ見当たらない」JAM Akihabaraしか行ったことがないため、いまいち詳しくない。
そしてここらへんの事情に関してはカフェバーをやりたい、ということでプロジェクトを動かしていたため3、内部事情含め結構詳しかったりする。
また、「知らずに語れない」というポリシーから、結構危ない橋を渡っていることも、付き合いの長い人なら知っているだろう。
アキバの歓楽街化の話
まず言いたいのが、秋葉原の裏っかわ4が危ない、というのは結構前から言われていたりする、ということだ。
危ないというのは、怪しい店の客引きや、詐欺、あるいはもう少しパワーのある犯罪などがかなり見られ、治安の悪化著しいという話であり、2014年あたりには結構問題視されたという記憶がある。 現在あまり騒がれないのは、問題が軽減されたということではなくて、あまりにも常態化してしまって秋葉原が部分的にトップクラスに治安の悪い場所だ、ということが秋葉原の民に定着してしまったからだ。
秋葉原という場所は「観光客以外の流動性が少ない」場所でもある。 観光客は物珍しさから非日常的振る舞いを積極的にするし、そこに属している人たちは当然に冷静に観察する。「これは自分たちとは違うものだ」「これは異分子であり危険なものだ」という気配を鋭く感じ取るのだ。
これはつまり、こうした治安悪化が表面化しにくいということでもある。 通過するだけ、利用するだけの無知なる子羊が多いほうが、より多くの、しかし被害を受け流すことができない人が被害を受けることになり、問題が表面化する。 例えば新宿であれば、単に飲んでるだけの人や、遊びとしてとりあえず都市部にきた人がかなりいるため、問題として取り上げられやすい。
そもそもアキバの歓楽街化は、JKビジネス参入とともに進んだ。 JKビジネスは、他の「おっさん都市」から安全性を求めて逃れてきた形だった。 「下心豊富なおっさんを相手にするより、奥手なオタクを相手にする方が安全だ」という侮りがありきでのことだった。
だが、実際はオタクはそのようなものをあまり相手にしなかった。 オタクに下心がないのではなく、そのようなものを恐れ、忌避する傾向が強いためだ。 そのために、結局JKビジネスはアキバに属さないおっさんをターゲットにするという戦略を取った。 これは結局、元の場所で嫌ったリスクを再び抱えることを選択しているわけで、本末転倒なのだが、そのかわりライバルが少ないというメリットは手に入れることができた。
特に性風俗系では「新しい」「慣れていない」ということは「チャンス」とみなされるため、情報の流通は速い。 結果、エロおっさんからすれば「秋葉原は狙い目」という認識が生まれることになる。 そうして人が集う傾向が出れば、それを狙ったビジネスが成立する。結果、性風俗や、売春、またホステス系飲み屋が次々と進出する状況になった。
現在は夜になるとガールズバーを中心に客引きだらけで、新宿なんかよりよっぽどしんどい状況だ。心斎橋よりはマシくらい。
また、実際のところアキバのガールズバーの子は、アキバの文化(PCにも、萌えにも、無線にも、機械にも、ケバブにも)に詳しいわけではないし、むしろアキバに来たことがないなんてレベルだったりする。 新宿の子ですね、という感じだったので、アキバである意義は全く感じなかった。 むしろ、色々舐めすぎていて、この上なく無駄な時間だと感じた。
メイドカフェもあんまり大差ない
そもそもロジックや動機づけとしては、メイドカフェとガールズバーにどれだけ差があるのか、という問題もある。
接客という面に差はあるが、その差というのは本質的に「ガールズバーとラウンジの違い」と同程度の違いであり、「女の子を目当てにし」「それによってサービスの価値を設定し」「そこにいることに料金が発生し」「女の子に貢ぐ形で追加のフィーが発生する」という構造は、「何を介しているか」の違いに過ぎず、外形の違いはあれど本質は同じである。
潜在的には普通のカフェやレストランでも内包しうる性質なのだが、 それは例え分かっていたとしてもそれが中核的価値とみなすかどうかというのは、それこそ「そういう店じゃない」というプライドもあるだろうし、品性として価値はそれによって生まれるわけではないとするのか、それともそれらの要素ありきなのか5という違いがある。
そして、メイドカフェは、地下アイドルと非常に類似した方向に進歩してきた。 メイドの個を選民的高級化し、「相手してもらえることは尊いことだ」という意識を植え付けるように働いてきたのだ。
それがあたかも当たり前になってしまったために、今や価値形成自体を忘れて、選民を語れば崇めてもらえる、というような勘違いすら発生している。 アキバの客引きでは「チェキとってあげます」と言われたことがある。それが根幹となるサービスらしいのだけれども、「君と写真に収まってあげることで、私に何の得があるのか?」という質問に対しては、なぜそのような質問をされるのか理解できないという様子ですらあった。
このような精神性に関しては、以前「女の子はみんなpublicになって、接することにpermitが必要な状態」という話をしたけれども(8割くらい、自意識の肥大化と、過剰な自己価値の設定からなる)、そこの話はとりあえず今回は置いておく。6
地下アイドルも基本的に「対価によってお近づきになれる」というものだから、これらは本質的に同じだ。 基本的にこの10年くらいは、「従来は夜の仕事でのみ適用されてきた価値観や手法が普遍化して女性として然るべき振る舞いという方向に流れてきた」ということが言える。
主張はわからないではない
元記事の店側の主張は、納得できるというか、同意できる部分もある。
まず、形態も含めてガールズバーそのものの「メイドバー」というものがある。 それと、どちらかといえば地下アイドル的な文化を展開するメイドカフェをいっしょくたにしたような主張だが、 この主張においては「営業形態の違い」というのは決して小さくない要素なので、これはあまり良い主張とはいえない。
だが、「特定の女の子が集客力を持って店のコンテンツの本質的な価値になる形態」(ガールズバーと同じ)と、「女の子が給仕する、ということが店の価値を成り立たせているが中核となるコンテンツは喫茶店である」(アンナミラーズと同じ)にはだいぶ大きな差がある。 私は前者は(あの文化でやられるのは)耐え難いものであるけれども、後者は別に構わない。実際、JAM Akihabaraは後者なのだ。
もしJAMに女の子がいなかったら、それはちょっとさびしいし、店のコンテンツを低下させるだろう。 だが、別にいなかったら店として全く成り立たないかというとそんなことはないし、普通にカフェとして私は利用するだろう。
だから、後者の側(付加価値を持った喫茶店)からすれば、前者(夜の商売的手法)と一緒にするな!という気持ちは、理解できる。
この話のツッコミどころは、そもそもミアカフェが前者よりで、証言からしても文化的にも行動的にも7完全に夜のお店を持ち込んだものであったので、「どの口でそれを言うのか」という話なのだけれども、その意味では内容自体は間違っていない。
それは誰のものか
言うまでもないと思うのだけれど、普通は値付けや、集客方法、従業員待遇などは経営であって、それでやっていけないとすれば経営無能ということになる8。
採算がとれる値付けを行い、集客するなんていうのは、経営のごく基本的な部分なのだ。
ところが、それを客に要求するビジネスがある。 アイドルビジネスだ。
最近は非常によく使われる話で、「お前たちがもっと貢がなければ解散になるぞ!」「会えなくなるぞ!」と煽ることで利益を出そうとする手法だ。 その最たるものは、「CD○枚以上売上なければ解散」「ひとり○枚は買って」という解散商法というやつだ。
これは公式にではなく、ガールズバーやキャバクラでも割と登場するものだったりする。 「今月ノルマ厳しいの」というやつだ。
それを批判する立場に立っているはずなのに、まさに批判の対象にしている側でなければやらないことをしている。 つまり、どこに属した文化、思考なのかということが現れた帰結であり、そこに思い至らないあたりそちら側にどっぷりなのだね…ということになる。
もう一度言うが、なにを、いくらで、どのように売るかということや、誰をどのように雇い、なにをさせるかというのは、経営なのである。 そして、それでやっていけない店というのは、各個人的にはともかく、社会的には必要とされていないのだ。
別にアキバからなくなってくれても、私は困らない
さて、喫茶店型のメイドカフェがなくなろうが、あるいはメイドカフェがなくなろうが、秋葉原が萌の街でなくなって新宿みたいになろうが、秋葉原に時折通っている私は全く構わない。
オタクは「関心がない人がいる」ということを見失いがちな時があるが、別に秋葉原が好きなのは萌えオタだけではないのだし、 最初から秋葉原が萌えオタのものだったわけではない。
無線フリークなどは秋葉原から、侵略してきた文化によって追い出されたもののひとつだ。 そして、それを追い出したものは萌え勢力だった。 じゃあなぜ、萌勢力が追い出される日はこない、あるいはあってはならないということになるのだろう?
だから努力しなければならない、残さなければならない、というのはなんともエゴイスティックな理論だ。 もちろん、それが我々は、という話ならわかる。自分たちの利益のために自分たちが努力しようというのは至極まっとうな話だ。
ところが、「私の利益のためにお前たちはもっと努力しろ」というのはいくらなんでも無理がある。
そして、私は過剰な萌文化は嫌いなので、メイドカフェがなくなってくれても別にいい。 現状のメイドカフェが滅びてガールズバーやキャバクラばかりになったとしても、特に私にとっては違いはない。
でも、JAM Akihabaraは好きなので、なくならないように9できるだけ売上に貢献しておこうかな…とは思う。だが、それはあくまでJAM Akihabaraに対する気持ちであって、アキバから別に萌え文化が滅びては困る…などとは全く思わない。
そして、メイドカフェだの萌えだのが跋扈するのが「秋葉原らしさ」だとも全く思わない。 さらに言えば、アキバを構成する主だったショップは今やそれなりに大きい企業だ10。
無意味な特別意識
保護しろとか、優遇しろとか、そういった言葉を並べる人はもとより珍しくもない。 だがそれは結局のところ、努力や工夫を放棄して、自分を特別扱いしろお前らなんとかしろと吠えているに過ぎない。
「毎日来い」「義務だ」といった発言はまさにそのようなものだろう。
また、「嫌な思いをすることを徹底して排除し、待遇もよくしている」という主張に関しては、「社長との同衾の強要」のような極限の嫌な思いをしたという発言が出ている時点で、少なくとも「嫌な思いを排除できている」とは全く言えないわけで、実現できているとは全く言えない(もちろん、全く実現しようともしていないのかもしれないが)。
「サービスの質が低いから行きたくない」というのは商売として致命的なことだし、それは他店舗を否定する意味はない。 ミアカフェの場合、「採算性が悪く経営が厳しい」のではなく、「人が入らず売上自体がない」という状態なのだから、そもそもミアカフェは望まれていない状態なのだ。
ものすごく高価格だというのであればわからなくもないが、「いい店」であるのならば売上自体はそれなりにあるはずだ。 主張していることに全て意味がなく、単純に「支持されていないから売上がない」だけの話をお勧め責任転嫁し、問題をすげ替えているだけなのである。
Hacker’s cafeの話
おまけにはなるが、Hacker’s Cafeがどのようなコンセプトで、どのような設計がなされていたかという情報を明かそう。 なお、価値を創造する部分はもっと細かく色々とあるため、この情報だけで真似することはできないはずだ。
ちなみに、このHacker’s Cafe、ベースになったアイディアはJAM Akihabaraではとても作業が捗るということと、いつもいっているガールズバーとの組み合わせである。
- カフェ/バーの2パート制
- お酒が出ず、チャージのかからないカフェタイムと、お酒も出る代わりにチャージのかかるバータイムの2パート制。カフェタイムは大学生やビジネスマンが利用しやすいリーズナブルな価格で、バータイムはちょっと高め。
- 作業しやすいデスクとチェア
- コンパクトなワークチェア、低くて作業しやすく、料理を載せてもラップトップが広げられる広めの机に電源を搭載。
- 貸出ラップトップ
- 通常はLinux。少し高いレンタル料金でOffice搭載Windowsラップトップも利用可能。
- 高速Wi-Fi
- 作業には欠かせない高速Wi-Fiを提供
- 適切な照明
- コンピュータ作業に適した、映り込まない程度の明るさ
- こぼれにくいグラス
- 飲み物に関わらず、安定していて、接触時に倒しにくい形状のグラスを使用
- 女の子
- 給仕は基本的に女の子。給仕ついでにちょっとくらいおしゃべりもOK。ただし基本的には「その空間に女の子がいると捗るよね」という位置づけ
- バリスタとバーテンダー
- カフェタイムにはバリスタを、バータイムにはバリスタを配置。
- ちゃんとした料理を出す
- 店内で調理する、「料理で勝負できるお店」に
- カウンターから遠いところにデート席
- 通常席が1人席(補助席利用可)なのに対し、デートに向いたハイラウンドテーブル+ハイチェア、の2人席
- パフォーマンスエリア
- ライブイベントやごく小規模の結婚式の二次会でも利用可能なステージをカウンター逆側に配置。持ち込み困難なドラムとコンソール、そしてマイクは設備として用意。
スタッフの待遇面では、セクシーにならない可愛い制服や、キッチンスタッフを含めガールズバーの基本給よりは安い程度のフィー11などだ。
店作りや採算性など12検討事項は多いが、「良いサービス」「魅力あるお店づくり」「働きやすい場所」「また来たくなるお店」「来てよかったなと思える空間」など、商売としてなりたち、かつ商売をすることで価値を創造できるということをきちんと検討している。
私は決して商人ではないので、このあたりは得意というわけではないが、お店をするってそういうことではないだろうか。
弁明せよ、と言う人がいると思うので先回りするならば、それすらないと私は本当に「誰かと言葉を交わすということが一切ない生活」になり、何かを感じても、何かを思っても、自分の中に溜め込むしかなくなってしまうから、という理由が大きい。ただし、これも色々と複雑な事情があるにはあるが。↩︎
こちらはガールズバーの通いっぷりから考えるとかなり少ない。最大の理由は、あまり近くに座られること自体が嫌だし、もてなしも嫌だし、その他様々な忌避理由があるためだ。↩︎
このカフェバー(Hacker’s Cafe & Bar)はアイディアとしてはサイコーだと思うし、評判もよかったのだけれど、スポンサーが逃げてしまった。今もスポンサー、ファウンダーは絶賛募集中。↩︎
KFCのある辺りより向こうのことだ↩︎
内容によるものを別とすれば(特定の女の子に価値が帰属するわけではないし)、アンナミラーズやフーターズだって同質である部分が大いにあるということだ。↩︎
ちなみに、この話は困ったことにあながち間違ってもいないのだ。「男を相手にする」という前提であれば、そのような振る舞いをしたところで喜んでそれに従う男が常に一定数は出る状態であるのだから。↩︎
ないがしろにされがちだが、店がキャストに対してどのように捉え、どのように扱っているか、ということは店全体のあり方を極めて左右する。健全な店に見せかけてキャストに裏でダーティなことを要求する…というのは土台無理なのだ。そんなものは早晩露呈するし、空気感として現れてくる。↩︎
悲しいかな、私もそれに近い。↩︎
どう考えてもJAM Akihabaraの経営は厳しいと思われる↩︎
最大のショップであるツクモはヤマダ電機の参加だし、ソフマップはビックカメラの傘下だし、iiyama/Mouse Computer/BUYMORE/パソコン工房らはユニットコムという連合企業と化している。arkはタワーヒルという会社で、独立系だ。↩︎
ただし、これは「高すぎて不安になるからよくない」という指摘が、ガールズバーのキャストよりなされている。そのため、検討事項となっている。↩︎
採算性の悪い店をサンプルにしているため、多分このアイディアのままでは採算性が悪すぎる。↩︎