Harukamy's Memoranda

TAS2022 TOYOTA GAZOO Racing モータースポーツ未来会議について

東京オートサロン2022のトヨタのイベントとして、「TOYOTA GAZOO Racing モータースポーツ未来会議」が行われ、プロドライバーや豊田章男社長などが参加した。

最終的には「ただのイベントだったな」という感じもしたが、「モータースポーツファンを増やす方法」というテーマでソーシャルディスカッションが行われた。

それについて、(社長は気づいていたようだったが)なんともふわっとしたディスカッションで、これはみのりがないなと思った。

ふわっとした会議

前提が定まっておらず、事前調査がなく、そのため出てくる内容が大概「よくある思いつき」であったことだ。

会議でかなり推されたのが「ドライバーがSNSをやる」だが、「盛り上げるためにSNSをやろう」という話は至るところで出るものであり、大概にしてそれは上手く行かない。 また、「教習所で安全運転教習をやる」というものも推していたが、二輪の世界では既に行われており、こちらも大きな成果にはなっていない。

ふわっとする最大の原因だった部分だが、ターゲットが誰でゴールは何かが最後まで不明瞭だったことだ。 ファンサービスの話などは既に参加している人の話だし、それでどうなったら成功なのだろう?

それらは間違いなく意味はあることだが、根本的なことを話し合う場でコツコツ積み上げる細かな施策を話し合うのは無意味な会議に属するのではないだろうか。

まず何を目指すのかはハッキリさせるべきではないのか。 モータースポーツのオーディエンス(観戦者)を増やしたいのか、モータースポーツのエントラント(参戦者)を増やしたいのか、自動車ユーザーを増やしたいのか、どれを狙ったものなのかがハッキリしておらず、混同されたまま話がなされたため、曖昧な論点のふわっとした会議となるわけだ。

オーディエンスを増やすという意味では、自動車に乗らない人でも、あるいはレースをすることに関心がない人でも成立する。 最近盛り上がっている将棋についても、自分で指すことはない「見る将」と呼ばれる人たちがいる。

一般参戦者を増やす、ということでは小さい頃にカートをやっていたといったバックグラウンドのない、一般の自動車ユーザーがアマチュアスポーツとしてレースに触れやすくするにはどうするか、という議論が必要で、他方世界のトップに立つ選手を排出する、という話であれば幼少期からの英才教育と選抜を経て優秀な選手を育て上げる手法についての議論になる。

自動車ユーザーを増やす、という点ではモータースポーツの流行は一要素でしかない。 別にモータースポーツに興味のない自動車ユーザーもいるし、もっといえばモータースポーツを毛嫌いする自動車ユーザーだって多い。

伴って、「何のために増やすのか」も重要だ。 例えば二輪レースの場合、スポーツとしてのメジャーさの低下という問題を抱えており、観戦者が少なく、よってスポンサーもつきにくく、そのためにレーシングライダーになっても生活していける見通しが立たないという問題がある。 これはイベント存続のため、またプロスポーツとして成り立つようにするために観戦者を増やしてお金が集まる仕組みにしなければならないという事情がある。 (といっても、二輪レース界隈でそのような論点を整理した議論はなされていない。なされない理由は知っているが、本筋から外れるので言及しない。)

だが、四輪モータースポーツに関してはそうした明らかな問題がない。プロスポーツとしてきちんと成立しており、イベントの集客力もSUPER GTに関してはかなり高く、イベントも持続可能な状態なのだ。 じゃあ「何をどうしたいのか?」という具体的な点について、結局イベント内では一度も言及されることがなかった。

場合によっては話すべきことは変わる

私の周りで、車好きを除外し、かつ車を所有している人を除外すると、車を所有しない理由は「必要性がない」が多く、「経済的に無理」もある程度いる。 ここに、「宝くじで高額当選したら車を買うか?」にYESと答えた、「必要性を感じていない」派を「経済的に無理」派に参入すると、だいたい2:1くらい。「必要性がない」派を「運転したくない」派(身分証明書として取ったのであり、自分で運転するのは怖いといった人)に分離すると1:1:1くらいになる。

つまり、多数派ではないが、「お金がないから車を買わない」人たち、「お金がないからレースしない」人たちがかなりいるわけだ。 ここを救済すれば全体のボリュームそのものが増すため、メジャーさを向上させるといったことがなくても数は増える。

しかし、それは社会的に見て経済状況を好転させる必要があるということで、非常に困難であり、また考えなければならないことも一気に広がる。 そのため、「最初から参加できない経済状況の人は対象から除外する」という決定を行うこともできるし、「そのような人の存在は検討の埒外とする」ということもできる。 これは普通のことで、「ペットを養う経済力のない人は動物保護の議論から除外する」みたいなことも行われているのだ。 これもまた前提の整理であり、今回の場合明らかにそういったことを話す場ではなかったから、前提として除外すべきで、それが行われていればチャット欄での不毛な出来事もいくらか減っただろう。1

レースに触れる機会がある前提であれば、レースコンテンツの魅力を増す、つまり「ファンとして定着させる」ことを論点にすべきだし、そもそもレースを知らない、もしくは関心がないことを前提にするなら「最初の機会」をどう設けるかという論点になる。 集まっている人については「レースを知らない人」はほとんどいないから、前者の意見が出やすい環境だが、ファン数を増やしたいなら後者のほうが重要だ。

「小学校でエンジンかけよう」みたいな意見は、潜在的肯定層には効果的だが、もともと嫌悪している人との溝を広げることにもなる。 憎悪しているようなタイプの人はどうしようもないが、社会的に肯定されることについての議論も必要で、それはイメージ戦略のような話になる。

単純に数を増やすだけなら、テレビ、特にワイドショーで露出される機会を増やすこと以上にはない。 今将棋がメジャーになったのもそういう状況だし、テレビによって作り上げられたヒーローを追いかける環境にしてしまえば良い。 そのような番組は最も多くの耳目を集めるものではないが、もっとも多くの統一的な行動を生み出しすものではある。2

だが、そのように群がるのはあまり健全ではなく、また意識が低い人々が集まることによりトラブルも起こりやすい。過去にもアイドルを餌にするという案が実行されたことがあるが、イベントのファンから相当嫌がられた。それを続ければ離れる人も少なくない数出るだろう。

例え本来のファンが減ったとしても、数の多い層に媚びていくのか、といったことも含めて「数さえ増えればいいか」という点も明らかすべきだ。 そこに前提了解があるのであれば(恐らく、何をしても、一時的でもいいから数を増やしたいということではなかったはずだ)それは共有しておくべきだし、その観点からすれ違った話も出た。了解がないのなら先にそうした前提部分を議論する必要がある。

意味はあると思うのだけど

具体的な解決策を真面目に議論する場ではなくただのイベントに過ぎない、という感想ではあるけれど、社長の行動力を考えると、今回の話を踏まえて何か実施されはするだろう。 社長自身が提案していたショッピングモールの駐車場での走行というのは実際に検討されるだろうし、ディーラーでという案も何かしら形になるだろう。

それは意味があると思うし、それをキッカケにしたという人は当然出るだろう。 だが、非常に限定的な話で、「社会が大きく変わったなー」と思うようなことではない。 豊田章男さんが社長である今こそ、その次元まで踏み込んでいけると思うのだが、今回のイベントについては「期待したほどのことはなかった」と非常に残念に思う。

もちろん、そんなことはやるとしたらレーシングドライバーとソーシャルディスカッションではなく、社内で入念に検討して行うだろう。トヨタという企業としても、「車というものが社会にどのように見られているか」ということは非常に重要な要素であるはずだからだ。

しかし、私は車やバイクが好きというだけでバッシングされるようなことが多いから思うのだが、「車が否定的に見られている」「モータースポーツが否定的に見られている」という状況に対する認識が非常に甘いのではないかという気がしてしまう。 まず、「私は車が好きです」「私はバイクが好きです」と発言することを憚られないような環境にしていくことから必要なのではないか、否定的な先入観を持つ人が減ってこそ施策に意味があるのではないかと思うのだが。

自動車ユーザーでもモータースポーツが野蛮であると考える人は少なくない。 それは自動車メーカーが社会の側に迎合してモータースポーツを隔離しすぎたという原因だってあるはずなのだ。

ごくごく個人的には…

私はモータースポーツをやっていた(過去形)し、モータースポーツもだいぶ限られてしまったけど観るし3、車もまあお金と時間があれば乗るし、実際運転したいから年に何回かレンタカー借りてるし…… なので議論の外なんだけども。

個人的にこうしてほしい、ということを言うなら、もっと気軽にディーラーに行けるといいな。 別に直近1, 2ヶ月で買うつもりはないんだけど、買う気自体はあって、今収支のバランスがとれちゃっているから色々考えてるところだったりもする(2023年までは防音室とドラムの支払いがあるから難しいかもしれないけど)。 買う車もだいたい決めてはいるんだけど、試乗もしてない。今の時点で決められないから。

でも目標を設定する上でも、モチベーションを生み出す上でも、やっぱ本当は乗っておきたい。それでイメージを膨らませて、あああの車いいな、どれにしようかな、なんて悩むのも楽しいじゃない。

でもそういうことするには今のディーラー敷居が高いのよね。購入検討段階でないとなかなかって感じだから。 ショールームだったら平気だったりするけど、それだと走らせられないからさ。

だから、そこらへん敷居が下がると嬉しいかなっとは思った。


  1. 経済力そのものは差し置いても、私は「お金がないので車に乗っていない」派なのでここで切り捨てられる対象である。↩︎

  2. 最近ではマスクやウェットティッシュ、キッチンペーパーの品薄などが記憶に新しい。↩︎

  3. 今見ているのはSUPER GT, スーパー耐久, ニュルブルクリンク24時間レース, スパ・フランコルシャン24時間レース, GT World Challenge, JAGE杯モトジムカーナといったところ。↩︎

Wrote on:
2022-01-16

No comments avilable yet...

Add comment...