題材
2019 AUTOBACS SUPER GT Round6 AUTOPOLIS (@YouTube)は「こんなんあるのか!」と思うような波乱のレースであった。
ここまで5戦中4戦が雨という「週末の天気が崩れる」2019年、大分県にあるオートポリスにて微妙な空模様で始まった第6戦は途中、「1コーナーだけ雨で濡れる」という意味不明な事態に。 その後も天候に振り回される。
ビデオ観戦の仕方
ファンとしてはじっくり見続けるものではあるが、YouTubeに上がっているSUPER GTの動画はJSport制作の番組の再放送であり、人気の実況と解説によってしっかりと編成されている。
動画としては3時間、レースも2時間半ほどあるので、作業BGVとして流しながら、実況のサッシャさんが声をあげたら見る(ちょっと巻き戻したりする)というのがお勧め。 ライブで見る場合は見逃せないのでなんだかんだ手は止まるから、録画ならではの楽しみ方である。状況をずっと伝えてくれるので見てなくても状況はだいたいわかるのもいい。
解説
雨とタイヤ
通常、レーシングタイヤはまったく溝のないスリックタイヤと呼ばれるものである。(ドライタイヤと表現されることもあるが、SUPER GTにおいてはドライタイヤはスリックタイヤである)
スリックタイヤは高温になることでべっとべとになる。これによって路面にべちゃっと張り付く。 これを利用して路面をつかみながら走行しているわけである。
この路面のつかみ具合を「グリップ」と表現する。サ変動詞としても使われる。
溝のないカタマリなので、変形しにくく揉まれにくい。そのため、熱が発生しにくいからより大きな力をかける必要がある。 やわらかいタイヤなら変形しやすいし、よりべっちょりくっつくが、これはやわらかい消しゴムと同じようにすぐボロボロになってしまう。
雨で塗れてしまうと温度が上がらなくなるため、スリックタイヤは路面につっつかなくなる。 こうすると、スリックタイヤがグリップを発揮する手段が断たれる上に、路面との間に水の膜ができて路面と引き離されてしまう。 これは床に置いたチラシの上を走るようなものであり、普通のタイヤで普通の雪の上を走るよりも滑る。もはや氷の上に近い。
一方、「レインタイヤ」と呼ばれているものは、深い溝があるだけでなく、非常に柔らかい。 雨で水を吐き出しながら変形して発熱することができるようになっているわけだ。
これならば雨の中でも普通に走ることができるが、スリックタイヤをたわませることができるような乾いた路面で大きな力を加えると、柔らかいブロックが耐えきれずにちぎれてしまう。さらに、タイヤが許容できる以上の熱が発生し、ぽろぽろになってしまう。
レインタイヤは完全なドライ状態では一周5km程度のコースで1周走ることができるかどうかというレベルである。
問題は、「部分的に濡れている」ときだ。
ドライタイヤであれば濡れている部分はひたすら耐えることになるし、できるだけ他のクルマの轍を走ることで水がはけている場所を走ろうとする。一方、レインタイヤはできるだけ水が残っている場所を走り、乾いている場所では大きな力をかけないように走ることになる。
ベテランと若手
ベテランドライバーは、経験が豊富で、頭をクールに保つ方法を知っている人が多い。
このことから、難しい状況で事故を回避するドライビング、思わしくない状況のときに無理をせず今自分が走れる場所をキープする忍耐などを身に着けている。 また、他のドライバーとの信頼関係も築けていることから、ぶつかるんじゃないかと思うようなギリギリのバトルを繰り広げることも多い。
さらに、レースにおいては単純に速くても、前のクルマを抜かなくては勝てない。 ペースが上がらないときに、微妙に入り込めない寄せ、狙いを読んで飛び込もうとした場所にすっと動いて塞ぐブロックなど「抜かせない」テクニックにも長けている。
一方、若手は速さや勢いもあって大胆な走りができるが、リスクが高くてクラッシュしたり、カッカしてしまって引くべき時にリスクを負ってしまったりすることも多い。
基本的には引き出しの多いベテランのほうが強いが、どんどん成長する若手の勢いあるドライビングも魅力だ。
イエローフラッグとセーフティカー
イエローフラッグは路上落下物や停止車両などコース上になんらかの危険がある時に提示・振動される。 イエローフラッグ中は追い越し禁止である。 一部区間だけイエローフラッグが出されることもある。
セーフティカーはイエローフラッグでもなお危険なときに出動する先導車である。 全ての車両はセーフティカーを追い越すこともできないので、セーフティカーに合わせた速度で隊列走行をすることになる。
なお、SUPER GTでは隊列整理を行うときに、1位の車両が先頭になるように頭出しが行われる。1位の車両より前にいる車両は、一周回ってきて最後尾につくことになる。つまり、ほぼ一周他のクルマが止まった状態で回ってくることになり、1位の車両の前にいる車両はものすごく得をすることになる。
逆に逃げて差を開いていた車両は、隊列によってその差をリセットされてしまうのでとても損だ。
SUPER GTではセーフティカー中はピットに入ることはできず、ここで入るとペナルティが課せられる。 だが、ピットから出ることはできるため、セーフティカー導入直前にピットに入ることができれば、コース上の車両はゆっくり走っているので、ピットの作業時間によって遅れる度合いを減らすことができる。さらに、空いてしまった間隔は隊列整理によって詰めることができるので非常に得をする。
一方、セーフティカーによるピットクローズで入るつもりだったのに入れなくなってしまった車両は大変である。 SUPER GTでは「一人のドライバーが最低限走らなければいけない距離」というものが定められており、ピットに入れないがためにこっちのペナルティを受けてしまう可能性もある。また、ガソリンがなくなってしまう状況などでもペナルティを受ける前提であえてピットインするような場合もある。
なお、ピットレーンクローズのルールがあるのは、これがないとセーフティカー導入と同時にピットに車両が殺到してしまうためだ。 そのルールがないレースでは実際にセーフティカー導入の瞬間みんなしてピットに入ることもある。
SUPER GTの調整
SUPER GTではこれまでの成績に応じておもりを載せたり、給気口を小さくしたりして性能を低下させるようになっている。
結果的に、ここまでに好成績を収めたクルマは遅くなり、勝ちにくくなるため、チャンピオンシップポイントにおいて接戦になるようになっている。
GT500/GT300
GT500車両は「速い方」であり、中身は基本的に共通。 2019年では微妙に違いがあるが、2020年は中身はまるっきり同じになる。
GT300は「遅い方」で、伝統的なGT300車両であるJAF-GTと、国際的な人気カテゴリーであるGT3、そしてSUPER GTオリジナルのマザーシャシーの3タイプの車両がいる。
JAF-GTは市販車の改造車であり、レーシングマシンとして生まれ変わったクルマだ。 マザーシャシーはGT500のように、レーシングカーとして作られた車体に専用のエンジンを搭載し、そこに各々好きなボディを載せる方式になっている。
GT3は世界中色んなレースで見ることができるものだが、いずれも色んなスーパーカーをレース専用に仕立て直したものである。 見た目はJAF-GTよりも市販状態に近いが、中身はJAF-GTに負けず劣らずレーシングスペシャルである。
GT300車両は性能がどれも近くなるように、速い車両には遅くなるような制限がかけられている。
ピット作業
給油、タイヤ交換、ドライバー交代などを行うピット作業。
耐久レースでは確実な作業を優先し、比較的ゆっくり行うことが多いが、SUPER GTは激戦であるため、セミ耐久でありながら猛烈にピット作業が速い。ときには思わぬミスを発生して命取りになるほどだ。
ピット作業時、マシンに触ることができる人数は厳密に決められている。 このためにドライバー交代時は降りるドライバーも協力する。
この制限上、SUPER GTではタイヤを2輪ずつ交換することになる。そのため、ピット時間を減らすために「2輪だけ交換する」という作戦をとられることが多い。 普通はこの場合、前輪だけ、あるいは後輪だけを交換することになるが、「右だけ」とか「左だけ」を交換する場合もある。 これは、ものすごく乗りにくいそうで、ドライバーとしてはできればやめてほしいそうである。
ちなみに、2019年は「HOPPY 86」として走ったつちやエンジニアリングは全然タイヤ交換をしないことで知られている。なぜそんなにタイヤ交換しないのか、なぜそんなにタイヤがもつのかと疑問で仕方ないが、このためにピット作業が非常に短く、非常に強い。
一方、燃料の給油速度が制限されているJAF GTのSUBARU BRZ GT300はどうしてもピット時間が長くなり、ピット作業で後退することが多い。これは、小さいエンジンでパワーをひねり出すために燃費が悪く、そもそも入れなければいけない燃料の量が多い、という理由もある。