序
ここではありがちな質問や、基礎知識をまとめて紹介しよう。
法律・制度
免許
バイクの免許は次の3種類
- 原動機付自転車運転免許
- 普通自動二輪車運転免許
- 大型自動二輪車運転免許
運転できる車両は次のようになっている。
- 原動機付自転車運転免許 → 第1種原動機付自転車
- 普通自動二輪車運転免許 → 二輪の小型車 (400ccまで)
- 大型自動二輪車運転免許 → 二輪の小型車
普通自動二輪車運転免許と大型自動二輪車運転免許には限定免許が存在する。 限定免許というのは、いわゆる「オートマ限定」など、当該免許で運転できる車両の中で一部の車両に限られる条件である。 これに違反することは、扱いそのものは無免許運転と同じだが、「免許条件違反」という別に違反となる。
普通自動二輪車にはAT限定と小型限定、そして両者を組み合わせた小型AT限定の3種類の限定免許がある。
小型限定は運転できる車両が第2種原動機付自転車甲種までに限られる。 AT限定は手動のクラッチ装置を持つ車両は運転できない。
大型自動二輪車ではAT限定がある。 これは、単に手動のクラッチ装置を持つ車両が運転できないだけではなく、排気量650ccまでという制限があった。 この制限は2019年12月1日に撤廃されている。
二輪車のAT限定はこの免許制度になってからしばらく後に追加されたものである。
教習・試験の内容は原動機付自転車運転免許だけが大きく違い、簡易な学科のみといっていいようなものである。 そのため、非常に簡単にとれる。
普通自動二輪車及び大型自動二輪車の運転免許は形式そのものは同じで、学科も普通自動車運転免許と同じものを受験することになる。 このため、二輪運転免許を取得することで普通自動車の学科の免除を受けることができ、逆に普通自動車運転免許を持つ場合、二輪自動車の運転免許の学科試験は免除される。
実技は大部分が使用する車両の違いによるところがその違いであるが、大型自動二輪車は普通自動二輪車よりも課題項目の難易度が上げられており、さらに「波状路」という普通自動二輪車にはない課題項目が追加される。
試験を受ける場合には大型自動二輪車に所持免許の条件はないのだが、教習によって実技試験の免除を受ける場合、教習所が大型二輪について入校条件を普通自動二輪車の運転免許所持を条件としている(限定免許でも構わない)ので、この場合は事実上普通自動二輪車運転免許を取得しないと大型自動二輪車運転免許を取得することはできない(最初から大型自動二輪車での入校を受け付ける教習所もあるが、それでもまず普通自動二輪車運転免許を取得することになる)。
実際の教習・試験に関しては試験難易度の違いを参考にしてほしい。
タイヤが3つある「トライク」は以前は二輪免許だったが、現在は四輪免許。 (原付は別) ただし、タイヤが3つあってもバイクに人が乗るための側車がついているもの(サイドカー)は二輪免許。
免許が取得可能な年齢は16歳からだが、大型自動二輪車運転免許は18歳から。
なお、古い話をすると、1995年までは普通自動二輪車と大型自動二輪車の区別がなく、「自動二輪」というくくりで、小型限定のほかに中型限定という今の普通自動二輪車のような限定免許があった。 この頃は教習所では中型限定までしか免許が取得できず、限定なしは試験のみだった上に難易度が高かったという。ちなみに、難易度が高い、は合格率だけを見ているのだが、落ちて然るべき要素がなかったとは言い難いので、もちろん教習での検定よりは難易度が高いのは当然として、今のほうが簡単になったと言い切るのはやや疑問があったりする。そして、難易度が猛烈に高かったという言い方もだ。
1995年に大型自動二輪が登場するが、教習所で取れるようになったのは翌1996年。 AT限定免許ができたのは2005年。
さらにそれよりも昔の話をすると、1972-1975の間だけ、小型自動二輪という免許があった。 この時期だけ、学科が原付同様に分離されていたらしい。
これより前は1965-1972まで原付と自動二輪というごく単純な区分があり、これ以前にバイクの免許を取得していた人は繰り上げでの自動二輪免許が受けられて大型に乗れる。
それ以前に関しては排気量による区分がころころ変わっていて、1947年以前には四輪車の免許と合同だった。 (だから、バイクの免許を受けたことがないがバイクの免許を持っているという人は、もう90歳以上であろう)
こうしたことから、バイクの免許に関する議論は世代を隔てると食い違うことがある。
車両区分
免許は道路交通法の管轄だが、車両は道路運送車両法(通称車両運送法)の管轄。そのため、免許とは区分が違う。
- 第1種原動機付自転車 (-50cc)
- 第2種原動機付自転車乙種 (-80cc)
- 第2種原動機付自転車甲種 (-125cc)
- 軽二輪 (-250cc)
- 二輪の小型自動車
の5種類。
排気量で書いてあるけれども、排気量のほか車両サイズの規定もある。 第2種原動機付自転車乙種は黄色、第2種原動機付自転車甲種はピンクのナンバープレートで、軽二輪のナンバープレートは少し小さくて緑の縁取りがない。
重要な違いとして、原付は第1種だろうが第2種だろうが、地方税であり、自動車重量税が登録時にしかかからない。 軽二輪と二輪の小型自動車は軽自動車と同じ扱い。
また、軽二輪までは車検がない。車検があるのは二輪の小型自動車だけ。
二人乗り (タンデム)
バイクの後席に同乗者を乗せるタンデムは、
- 普通自動二輪車または大型自動二輪車の運転免許を受けてから1年以上が経過していること
- 車両に搭乗装置があること
- 定乗員数に収まること
が条件。
搭乗装置は
- シート
- ステップ
- つかまるところ
の3点。つかまるところ、というのは世界的にはあんまりないらしく、日本で後席のシートにベルトがかけてあるのはこのため。
定乗員数との関係がどうなっているのかというと、もちろん搭乗装置がないのにそこに乗車する前提の定乗員数では車検が通らないが、車検を通したあと搭乗装置をとっぱらって乗せるのはだめということだ。
そして、逆に乗せる前提で車検を通さないと搭乗装置を取り付けてもだめである。
第1種原動機付自転車は定乗員数1に固定されてしまうので、第1種原動機付自転車でタンデムはできない。
高速道路でのタンデムはさらに条件がつく。
- 普通自動二輪車または大型自動二輪車の運転免許を受けてから3年以上が経過していること
- 満20歳以上であること
ちなみに、高速道路のタンデムは1965年に禁止され、2005年にこの形式で復活した。
高速道路走行
高速道路走行ができるのは軽二輪と二輪の小型自動車のみ。
道路運送車両法によって規定されており、これは軽二輪や二輪の小型自動車が「自動車」であるのに対して、原動機付自転車は「軽車両」であるため。
よく聞かれるようなこと
危なくない?
ちゃんとした装備をしないで走るのはだいたい自殺行為だと思って間違いない。 この「ちゃんとした装備」というのは、「バイクに乗るのに適した服装」の意味ではなく、「バイクに乗るにあたって安全な服装」の意味である。つまり、防御力の高いヘルメットやプロテクターを装着することを意味する。
一般的に普通の転倒はそんなにダメージがない。 適切に転倒することができれば、100km/hくらいからコケたとしてもそこまでダメージはない。 それどころか、条件さえよければ(サーキットなどで安全に転倒することができれば)300km/h超でも無事だったりする。
バイクの場合、転倒すると質量が大きいバイクがライダーから離れることからサーキットにおいてはクルマよりも死亡しにくかった…のだが、現在はそうとは言えない。 これは、バイクの安全性向上には限界があり、一方クルマの場合最大の死亡原因だった火災に対する対策が進み、また首に対して大きなGがかかるという問題も対策されているためだ。
また、衝突に対しては間違いなく弱い。 ちゃんと装備していれば一撃死ということはないのだが、当たりどころによると言うほかなく、それ以上に「後続に轢かれる」というのは致命的なのだ。 また、転倒中転がっているときに標識など固いものに衝突してしまう場合も同様である。
だから、一般の人が思うほど危なくはないのだが、結構危ないことには変わりない。 ただし、普通の走り方をしている限り転倒に関してはそんなに危なくない。
バイクって速いの?
加速力に関しては文句なしに速い。
私が以前乗っていた400ccバイクであるSV400Sは0-100km/h加速が4秒程度である。 これは、WRX STIのような「かなり速いスポーツカー」並である。
本当に速いバイクになると2秒前後になってくる。これはもはや、スーパーカーとか、何億もするようなハイパーカーと同じレベルの加速である。
最高速に関してはそうでもない。 400ccのバイクだと180km/h程度が限界ということが多く、クルマだとコンパクトカー並である。
最も速いバイクになってくると320km/h程度は出るが、スーパーカーと比較するならこれも分が悪い。 もっとも、1000cc以上のスポーツバイク並の速度(280km/hは出る)が出るクルマというのは多くはないが。
減速力は一般的には軽量な分バイクのほうが強く減速しやすい。 ただし、これは やりやすい という意味でしかないことに注意が必要である。制動力が足りている状態においては重量が重くなるとその分タイヤのグリップ力が向上するため、「重いと物理法則によって制動距離が伸びる」ということはないのである。 このため、サーキット走行などの限界走行においては、より安定して強いブレーキングができるクルマのほうが有利であり、さらにクルマはエアロパーツによって空力を利用して実際の車重(減速すべき運動すべきエネルギー)よりも重い力でタイヤを地面に押し付けてグリップ力を向上させることができるため、サーキットを走るような車両はバイクよりも強く減速できる。一般的な走行ではクルマから見れば信じられないくらいバイクはきゅっと止まる。
走行全体で見ると、一般的な道路ではバイクは車両が小さく、相対的に道が広くなるためクルマよりかなり速く走ることができる。 特に、道幅の狭い峠道などでは顕著である。
ただし、路面が悪い場合はバイクの場合とても遅くなるのでクルマより速く走るのは非常に難しい。 そして、サーキットなどの広い場所では前述の通り空力の利用という問題があり、クルマのほうが速くなりやすい。
バイクって不安定でしょ?
そんなことは全くない。
さすがに原付スクーターにのったときは不安定だなと感じたものの、軽二輪とか二輪の小型自動車とかになると、走り出せば一本芯が通ったような安定感があり、むしろ倒すのがとてもむずかしい。
バイクが誰からしても明らかに不安定になるのは速度が0に近いときか、もしくはバイクが倒れた状態で十分な遠心力を得られない速度になった場合である。つまり、いずれにせよ「傾いている状態で極端に減速した場合」だけである。 それ以外に関しては安定しているどころか、そう簡単に倒せるものではない。倒そうと思ったら、倒すための手順が必要で、力づくで倒すのは相当むずかしい。
クルマだと200km/h以上出すと不安定に感じられる場合が多いのだが(空気にゆすられるため)、基本的に速度を出すのに適したバイクだと速度は出せば出すほど安定する。 ちなみに、速度を出すのに適していないバイクだと200km/hも出すとライダーがパラシュート状態になって風に飛ばされそうになるので安定性どころではない。
この状態では大きめの石を踏んだくらいではなんともない。滑ってコケるということがなければ、小鳥を踏んでも平気である。 だが、猫くらいの大きさになると飛ぶ。あんまり速度には関係なく、バイクで猫を踏むのはかなり危ない。可能なら避けたほうが良い。なお、バイクで鹿に衝突すると結構な確率で命がない。あれはもはや壁である。
200km/hとか300km/hとかどこで出すの
倫理的・法的問題を無視するなら、クルマと違ってバイクでは割と簡単に出せる。
300km/h出るようなバイクだと、静止状態から200km/h出すのに8秒もいらないし、100km/hで走行している状態から300km/h近く出すのに20秒もいらない。
片側三車線あって分離されているような高速道路なら、割とどこでも出せるくらいにはバイクは加速する。
もっとも、そこまで速度差があると、普通に車線変更したクルマに突撃してしまう可能性が高く、危険度は相当高い。 別に300km/hで走ること自体には大した危険性はないが、混合交通の中では危険すぎる。
ちなみに、ありとあらゆる問題を無視すれば、市街地でも200km/h以上は普通に出せる。
寒いでしょ、暑いでしょ
寒い。そして暑い。
冬はちゃんと防寒していたとしても一桁温度になると相当きついし、一方バイクの操縦は結構な動きがあり汗をかくので余計に冷える。 特に防寒の余地がない手先足先はすぐ感覚がなくなってしまう。
体感温度は風速1メートル毎秒ごとに1度下がると言われている。つまり、気温5度で100km/hで走ると-23度くらいというわけだ。まぁ、さすがにそこまで単純な話ではないのだが、そんな感じなのは確か。
冬場に縮こまってクルマのすぐ後につこうとするバイクは、別に煽りたいわけではなく、さむすぎて風よけがほしいのだ。
一方、夏の暑さも非常に危険だ。バイク用の装備は普通に着て歩くならば真夏用のものでも秋物くらいの感覚である。 そんなものを着込んだ状態で、股の間に最高で150℃くらいの金属の塊を挟んでいるのである。当然熱い。
それでも走っていればまだなんとかなるのだが、トンネルの中で渋滞しているとあっという間に意識が遠のくほど暑くなる。 このようなケースにおいては車上温度は60℃を越えることが多く、かなり危険である。
バイクに関する初歩的な教養
バイクメーカー
日本には4大メーカーと呼ばれる世界的にも最大規模のバイクメーカーが揃っており、ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの4社。 カワサキが兵庫である以外の3メーカーは浜松のメーカーである。
ホンダとスズキは四輪車でも有名なメーカー。
ヤマハは楽器で有名なヤマハから派生したヤマハ発動機という会社で、主な製品はバイクであるものの、他にもマリンジェットやヘリ、プールなんかも作っている。トヨタ車のスーパースポーツ用エンジンはヤマハの協力があったりする。
カワサキは電車や航空機、ガスタービンなども作っている会社で、作っているものの中ではバイクはダントツに小さい。
日本のメーカーはカワサキはやや偏りがあるものの、バイクメーカーは一般的にそのメーカーが得意とするある一定のジャンルのバイクを作るのに対し、多様なバイクをラインナップするのが特徴的。
実は戦後、日本には百を越えるバイクメーカーがあった(やはり浜松に集中していた)のだが、淘汰され、今はその4メーカーが残る形になっている。
また、ヤマハも「浜松の」と言ってしまっているが、ヤマハ(楽器を作っているほう)は浜松の企業だが、ヤマハ発動機の本社は磐田にある。
海外のメーカーとしては、有名なアメリカのハーレーダビッドソンのほか、旅するバイクの代名詞とも言えるドイツのBMW(これも四輪と同じメーカー)、情熱溢れるバイクを作るイタリアのドゥカティ、伝統と洗練のイギリスのトライアンフ、土の上のレースでの強さで知られるオーストリアのKTMなどが有名どころ。
また、日本メーカー以外で幅広いバイクをラインナップするメーカーとしてはイタリアのピアッジオがある。 ローマの休日でもおなじみのヴェスパを販売しているスクーターメーカー(元々は航空機メーカー)だが、企業規模が大きく、様々なバイクメーカーを買収したため、非常に幅広いラインナップになっている。 ピアッジオ傘下でスポーツバイクを作っているメーカーとしてはアプリリアがある。
ちなみに、バイクメーカーは昔はもっとたくさんあり、第二次世界大戦後日本には百を超えるメーカーがあった。 その中から淘汰されて4メーカーが生き残った形である。
イギリスやイタリアには名門と呼ばれるメーカーがたくさんあるが、そのほとんどは今はもうない。 ただ、日本のように完全に消滅したわけではなく、誰かしら(ピアッジオのようなメーカーだったり、あるいは資産家だったり)が買収してその名前を使うことができる状態になっている。 そして、実際にバイクが出て復活することもあるが、なかなか続かず、実際にはそのメーカーのバイクは販売されていないという状況にあることが多い。
バイクの価格
250ccのスポーツバイクを底であると考えるならば、大体60-500万円といったところ。
クルマなら数千万円するようなスペシャルモデルでも500万円程度で買える。 手作りのスペシャルモデルや超ハイパフォーマンスモデルなど、クルマなら1億円を越えるハイパーカーに相当するようなものであっても500万円はなかなか越えないが、恐らく現時点で最も高額なのはMVアグスタのF4 LH44で、8,470,000円。
モデルチェンジによって基本的には維持されているモデルであっても、20年前と比べるとだいたい2倍近い価格になっていて、だいぶ手を出しにくくなっている。入門用と位置づけられる250ccモデルでも、CBR250RRは854,700円にも達する。
国産の1000ccクラスのスポーツモデルだと150-200万円くらいのものが多い。
もはや高校生がバイトして買えるようなものではなくなってしまっているが、バイクは中古車市場が成熟しており、良いコンディションのものに限っても30万円台くらいから探すことができる。
2スト (2サイクル)
一般的なエンジンは4ストローク1サイクルレシプロエンジンというものなのだが、昔は2ストローク1サイクルレシプロエンジンというのもあった。
これは、エンジンの動作工程としては4工程あり、4ストロークエンジンはピストンが2往復することでそれを達成するのだが、2ストロークエンジンは1往復でそれを達成してしまう。 効率的には倍であり、おかげで非常にパワフルなエンジンが出来上がる。 しかも構造が非常に単純なので軽い。
いいことづくめに見えるが、これを実現するためにはエンジンオイルを一緒に燃やす必要があり、エンジンオイルは燃えにくいという問題があるため、吸気と排気が混ざってしまうことに加え、未燃焼ガスの排出が多いことなどから環境負荷が大きい。 このために歴史から消えていった。
クルマだとむかーーーーーしのクルマぐらいしかないのだが、バイクだと日本でも90年代くらいまでは普通に売られていて、アジアでは普通に2000年代でも一般的だった。また、ヨーロッパでも環境に適合させるためものすっごくパワーを失った(同じモデルで全盛期の1/4くらいまでパワーダウン)クリーンな2ストエンジン車というのが売られていた。
世界最高峰のレースが2スト車両で行われていたこと、またその時期日本ではバイクブームであったことから、2ストに対してノスタルジーを抱く人は多い。 だが、現実問題としては最近のバイクは進化しているので現代のバイクより優れている、ということは基本的にない。
ただし、同一排気量であれば2ストのほうがパワーが出るのは事実である。 2スト250ccのバイクなら、現代の4スト600ccのバイクのほうが速いし使いやすい、ということは言えるのだが、問題は原付である。 原付の場合「排気量を大きくして解決する」という話にはならないので、50ccの原付スクーターは2ストローク時代と比べてとても非力になってしまっている。また、2ストローク90ccや100ccのスクーターと比べて4スト125ccのスクーターはやや思ったるいフィーリングがあるのも事実らしい。
ナナハン
もはや死後となりつつある「ナナハン」とは750ccのバイクのこと。
1988年まで日本メーカーが日本で販売するバイクは750ccまでとする、というメーカー間の合意による自主規制があった(国土交通省の意向を反映したものと言われている)ので、それまでは輸入車を別とすれば750ccというのは日本において最大のサイズだった。 このことから、750ccというのは、その時代にとって憧れの存在だったわけだ。
750ccには他にもいくつかの意味がある。 まず、4ストローク車両によるレースにおける排気量であったということだ。
2ストローク車両のレースは50, 80, 125, 250, 350, 500ccでレースが行われていたが、2ストロークで大排気量のレースの主流は750ccだった。 当時も1000ccのバイクというのはあるにはあったのだが、大きく重く、「高速で走る旅するバイク」という意味合いが強かった。これは、同じシリーズであるスポーツバイクでも、750ccは俊敏だが1000ccは重い、というのがお決まりだったのである。
また、その頃(といってもかなり後の方)は600ccは実用的な特性を与えられることが多く、実用的な600cc、でかくて重い1000ccに対して、レースで使うような俊敏さを持つ750ccというキャラクターもあった。
1000ccのバイクが軽く、俊敏で速いバイクになったのは、1999年のヤマハ YZF-R1以降。 まぁ、それ以前にドゥカティは851ccから始まる1000ccに至るバイクが存在していたのだが、このあたりは「4気筒のバイクは750ccまで、3気筒のバイクは900ccまで、2気筒のバイクは1000ccまで」というレースのルールによる。
20年くらい前は走ってると「それってナナハン?」とかって聞かれるのがお決まりだったが、もう「ナナハン」を知っている人は60歳くらいになってきているのであまり一般的ではなくなりつつある。 そもそも今は750ccのバイクはあまりない。
ただ、あまりないといっても、750ccという排気量区分がどこにもなくなってしまった後で、あえて600ccのバイクをベースとしてエンジンを750ccまで拡大したようなバイクというのが出てくるようになった。 これは、600ccのバイクでパワーを出そうとすると高回転まで回す必要があり、走っていて疲れるバイクになりやすい。これに対して750ccまで大きくするとかなりゆとりのあるパワーとなり、1000ccのように手に負えないほど溢れ出るパワーというわけでもないので比較的御しやすいということで「バランスのいいサイズ」という認識がされるようになったためだ。 そのため、現在においても「ほどよいバイク」として750ccのバイクはいくつかラインナップされている。
ちなみに、この流れを完全に無視しているのがスズキのGSX-R750である。 これは、レースをターゲットにしたGSX-R600のエンジンをそのまま750ccにしたものであり、ただでさえ速いGSX-R600に、さらなるハイパワーを追加したようなバイクとなっている。 もちろん、600ccと比べて余裕がある分乗りやすいという面はあるが、レースをするわけでもないのに狂気のような速さを持つバイクとなっている。
スネル規格
アメリカのスネル財団というところが作っているヘルメットの安全基準。 5年ごとに更新され、より厳しくなっていくのが特徴。
ヘルメットの安全基準としては最も厳しく、「スネル規格を取得している」というのは非常に優れた安全性の証ではあるのだが、スネル規格のヘルメットはその試験をパスしたということに過ぎないため、試験をパスするために偏った仕様のヘルメットが誕生することがある。
真面目なヘルメットメーカーは、単にスネル規格を取得すれば良しということではなく、様々な観点から安全性を追求している。
ヘルメットメーカー
日本のアライとショーエイは世界的に知られたバイクヘルメットの最高峰。
アライは安全性、ショーエイは快適性に特にこだわっている。
カブト(旧OGKカブト)は全製品を通じての特色というものはないが、レースにも使われるモデルに関しては高い安全性と快適性を両立させつつ、アライやショーエイのレース用ヘルメットと比べ安価なのが特徴。
欧米人と日本人では頭の形が違うため、専用の型が必要になることから海外製ヘルメットというのは一般的ではないが、軽さと静粛性で知られるシューベルトはやや有名。そのほか、AGV, SHARK, NOLAN, HJCなどのヘルメットメーカーがある。
暴走族
バイクやクルマによる迷惑な走行を行う人たち。
語義自体がそのように定義されるので勘違いされがちだが、暴走族の主体はバイクやクルマによる走行ではなく、基本的には暴力団の下部組織のようなものであるため、全く別の犯罪性を持っている集団だと考えて良い。 基本的には運転免許はなく、車両は盗難車である。
だから、そのような属性ではなく、単にバイクやクルマで走る人を暴走族と呼ぶことは侮辱どころでは済まない。
ちなみに、暴走族が好む改造バイクというのは非常に独創的というか、一言で言えば「ひと目でわかる変なバイク」であり、街中で遭遇すればすぐにわかる。 ところが、「暴走族と同じ様式のバイクを好み、暴走族と同じスタイルで乗車するが、免許はあり、普通に購入したバイクであり、別に迷惑な走行をするわけではない」という人たちもいる。これはパッと見に見分けがつかないのだが、根本的にライダーは犯罪集団である暴走族と一緒にされることをとても嫌うし、そもそも彼らを嫌悪しているという前提があるために奇妙なことが起きることがある。
それは、別に暴走族ではないライダーでもすり抜けをしたり、他車両の前に出て信号待ちをするようなマナーの悪いライダーというのは普通にいるし、また必要以上に街中で速度を出すようなライダーもいる。 こうした人たちが彼らに遭遇することにより、自分たちが嫌悪し見下している人たちが守っているルールやマナーを自分たちが守っていないことを恥じ入り、急におとなしい走りになる、という光景である。
曲がる前に減速するバイク
バイクの特性として、バイクを倒すにはその前に減速する必要がある。 これは、「スピードを落とさないといけない」という意味ではなく、旋回というアクションの最初に減速があるという意味である。
基本的にバイクは「曲がりながら加速する」ことはできても「加速しながら曲がる」ということはできない。 程度や技量によってはアクセルを緩めるだけでもいいのだが、とにかく最低限加速度を減らす方向にしなければならない。
だからバイクは曲がる時減速することになる。 そのため、右左折の前にびったびたに後ろにクルマにつかれると曲がることができないのである。まして、前述の通りバイクはクルマの比ではないほど一気に減速するので、バイクとして軽めに減速するだけで、びったびたについているクルマはまず間違いなく追突する。
なお、バイクがハンドルで曲がることができるかどうかは車両による。ハンドルがとてもよく切れるバイクだと40度以上切れるが(ヤマハ トリッカーに至っては52度も切れる)、前傾タイプのバイクだと20度も切れない車両もある。 ちなみにクルマのハンドル切れ角は一般乗用車30-35度程度。
しかし、例えクルマ並にハンドルが切れる車両であっても、ハンドルを切った状態で発進するのは非常に難しい。 極低速だと倒すのも難しく、かといってハンドルでも曲がらないので、右左折する前に停止する場合、バイクは加速して減速して旋回しなければならない。そのため、少し過剰に加速するのだが、そこでびたびたにつけるクルマがいる。
これは明らかに事故を誘発する行為であり、こんなことをするドライバーは免許を返上すべきである。
ゆっくり走っているのにうるさいバイク
20km/hくらい出ていればバイクは普通に走れるのだが、これを切ってくると人間側がバランスを取る必要が出てくる。 バランスのとりづらさで言えば自転車の方が上なのだが、バイクは重いのでちょっとぐらついただけでも立て直せないためシビアだ。
バランスをとる楽な方法として、エンジンの回転数が上がるとジャイロ効果によって安定するようになる。 そのため、自分でバランスをとらなくてはいけないようなケースにおいては半クラッチでアクセルを煽ることでバランスをとりやすくする。
だから、極低速で走るバイクはうるさかったりするのだが、安全な徐行のためにやむなくしていることなので大目に見て欲しい。
なお、そのような徐行が必要なのは市街地・住宅地であることが多く、回転数を上げるとかなりうるさいので、私はそうしたところを走る機会が多いことも踏まえ、バイクの音量が上がるような改造は避けるようにしている。
バイクのうるささ
意外に思うかもしれないが、排気音に関していえばクルマよりも基本的にバイクのほうが静かである。 これは、バイクのほうが音量規制が厳しいためであり、特に厳しい時期に製造されたバイクだとバイクが接近していることに気づかれないことすらある。
また、クルマだとタイヤが発するロードノイズが大きいが、バイクの場合軽量でタイヤの接地面積も小さいためロードノイズも小さい。
だから基本的にはバイクは静かなものである。
ただ、実際のところ改造などしていない(つまり排気音が大きくなっていない)場合、排気音よりも吸気音のほうが大きい。 そして、クルマはエンジンは覆われているが、バイクの場合吸気部分は基本的にむき出しであり、これが非常に音が大きい。 どれくらい大きいかというと、バイクは上部にタンクがあるため、一応音はまっすぐは出ていかないようになっているのだが、タンクを上げた状態でアクセルを開けると耳をふさぎたくなるくらいには大きい。
だから、加速時の音に関してはバイクのほうが大きい。 さらにいえば、バイクは非常に高回転までエンジンが回り、小さい分エンジンを回して走る乗り物なのだが、回転数が上がると音が高くなって目立つ上に大きくもなる。クルマだとだいたい2500rpmくらいでシフトアップ、引っ張っても3000rpmくらいだと思うが、バイクだと車両にもよるが3000rpmは回すのが普通なので、やっぱり加速時はどうしてもうるさい。
ちなみに、周囲には全然気づかれることはないが、100km/h走行時の回転数はバイクだと結構高いことがあるので、高速道路ではうるさい。これはライダー自身が疲れてくる。
ニーグリップ
バイク操縦の基本は、脚全体でバイクをホールドする「ニーグリップ」である。
実際には他にもやり方はあるのだが、共通するのは「腕に力が入っていてはいけない」ということだ。 腕に体重が乗っていると腕がつっぱることになるが、そうすると当然フロント回りの上下に合わせて肩がゆれ、結果として頭が上下するということになる。 どんなスポーツでもそうだが、「頭が上下する」というのは体が安定しておらず、だめな状態だ。
だから腕はフリーにして、体でバイクを操縦する。その基本がニーグリップである。 そして上体をハンドルにあずけてしまわないよう、しっかりと腹筋を使って上体を支える必要がある。
これはタンデムにおいても同じである。
もしライダーによりかかってしまうと、体全体を使ってバイクを操縦しているライダーの動きを妨げてしまうため、危険である。 おっぱいを押し付けている場合ではない。
基本は膝でしっかりとライダーをはさみ、つま先を内側にいれ、足全体で包み込むように押し付けるイメージである。 ライダー、パッセンジャー共にできるだけすべりにくい素材のパンツを履いたほうがやりやすい。 そして、ライダーの体の前に手をやって、ライダーの体を引きつける。一方、体は後傾させるのではなく、腹筋で上体を支え、骨盤を立てる、というのが基本的な乗り方である。手でライダーを引きつけるという以外については、ライダーと変わらない。
なお、厚い胸部プロテクターと背部プロテクターを装着する関係上、どんなに巨乳でもおっぱいは感じない。残念でした。
操作方法
一般的なバイクの場合
- 右手でアクセル(撚る・回すようになっている) と前ブレーキ (自転車と同じレバー)
- 左手でクラッチ (レバー)
- 右足で後ブレーキ (ペダル)
- 左足でシフトチェンジ (ペダル)
である。 シフトに関してはバイクは常時噛合式ギアなので、ギアとギアの間にニュートラルがなく、アップ/ダウンの操作になる。 ニュートラルに入れる場合は一般的には1速と2速の間にあるが、これはほんとに「間にある」もので、普通にアップダウンするとニュートラルにはならない。
ちょこちょこ進まないで
なぜかAT車でちゃんとブレーキを踏んでおらず、信号の間にちょっと進んで止まるを繰り返す人がいるのだが、これをされるとバイクはずっとクラッチを握っている必要があり、車両への負担が大きい上になにより左手が辛いので本当にやめてほしい。
大きいスポーツバイクだとクラッチの重さが20kg以上あるようなものもあるため、握力を鍛えているような状態だ。
また、両足でバイクを支えることもできなくなるので脚への負担も大きい。
レース、サーキット
ライダーは一般ドライバー(つまりクルマ)と比べると比率的にはスポーツ走行に関心がある人が多く、サーキット走行の経験のあるライダーというのはとても多い。
もちろん、これはライダー全体においてサーキット走行をしたことあるライダーが多くを占めるという意味ではない。あくまで、ドライバーでサーキットを走ったことある人なんてほとんどいないのと比べると、バイクでサーキットを走ったことがある人は割といる、ということである。
これをレース、つまりコンペティションに出たことがある、という話になると相当減るのだが、それでもクルマと比べるとだいぶ身近である。
その大きな理由のひとつに、バイクには身近に遊べるレースがたくさんあるということが言える。
原付バイクでレースをするスクーターレースが別に敷居が低いというわけではないのだが、例えば人気のあるエンジョイレースとして「Let’s レン耐」というイベントがあり、装備品があれば車両はレンタル(!)というものである。 それどころか、実は装備品のレンタルもできる(!!)
腕自慢が腕を競うというものではなく、バイク仲間で集まってわいわい楽しもう、みたいなイベントである。 しかも、「転んだら罰金5000円」「接触で相手をこかしたら失格」というルールなので、いっぱいいっぱいで走ることはそもそもできない。
ドライバーにとってのカーレースと比べライダーのとってのバイクレースはずっと身近で、みんな割と関心もある。 そして、バイクを使った遊び方として広く認知されてもいる。
もちろん、本気のコンペティションレースもある。 というよりも、コンペティションレースの制度に関してはクルマよりもしっかりと階層化されている。 このようなコンペティションレースに関しては基本的にはプロを目指す本気の人たちのレースであり、エンジョイ感は全くない。
これからライダーになる人と初心者のための知識
試験難易度の違い
車両
教習車両はだいたい次のような感じ
125cc:
- HONDA CB125T
- HONDA CB125F
- YAMAHA SR125
- KAWASAKI ELIMINATOR 125
125cc AT:
- HONDA SPACY 125
- YAMAHA CYGNUS X
- SUZUKI ADDRESS V125
400cc:
- HONDA VFR400K
- HONDA CB400SF (3世代あり)
- YAMAHA XJR400L
- KAWASAKI ZRX-II
400cc AT:
- HONDA SILVER WING GT
- YAMAHA Grand Majesty
- SUZUKI SKYWAVE 400
750cc over:
- HONDA VFR750K
- HONDA CB750
- HONDA NC750
- YAMAHA XJ900
- YAMAHA FZX750
- YAMAHA XJR1300L
- SUZUKI GSF750
- KAWASAKI Zepyer 750
- Harley-Davidson Sportstar XL883
- Harlet-Davidson Street750
- BMW F800ST
- BMW F800R
650cc AT:
- HONDA SLIVER WING 600
- SUZUKI SKYWAVE 650
実はこのために「何の車両を使うか」によって難易度がものすごく変わる。
例えば、VFR400Kは非常にブレーキの効きにくい車両であり、あらゆる課題走行においてかなり難易度が高い。 しかも、VFR400Kが低速トルクが薄く、回してパワーを出すようなエンジン特性であるために、スラロームではスロットルを開けても車体が起きてこないという問題があり、その乗りこなしには積極性が必要で難易度が高かった。
また、FZX750やスポーツスターなどの車両は、全体にあまり機敏な動きをするのには向いていない。 シートが低く安定感があるため、安心して乗れるという面はあるが、教習所での操作を考えると難易度は高い。
そして最も難易度が高いと考えられているのがXJR1300Lである。 この車両は非常に大きく重いため、普通自動二輪車しか経験のないライダーにとっては相当手強い。 その分パワフルな車両だが、教習において嬉しい要素ではないだろう。
多くの教習所はMT教習車はホンダだが、ホンダの場合VFR400KからCB400SFに代わってブレーキがよく効くようになり、エンジン特性も素直になったのでものすごく乗りやすくなった。さらに、CB400SFの第二世代教習車は大幅に軽くなっており、さらに楽になった。それと比べると第三世代は大きくよくなったわけではないが、エンジンのスムーズさが向上しているので少し楽である。また、ライトが明るくなったので夜間教習が楽になった(VFR400Kはライトもすごく暗かった)。
大型のほうはVFR750Kもそんなに悪いわけではなかったが、CB750になってバイクそのものが低くなり、スロットルを開けたときの反応がよくなったので、全体的には乗りやすくなった。 だが、大きく変わったのはNCで、NCは非常に軽く、さすがに第二世代以降のCB400SFはあまりにも扱いやすいので同じとは言い難いが、最初のCB400SF教習車とはあまり変わらない感覚で運転できる。このために大型自動二輪車の教習の難易度は随分下がった。
試験内容
まず、法規走行についても普通自動二輪車よりも大型自動二輪車のほうがコースが長い上にコース種類も多く、難易度が高く設定されている。
課題走行では大型自動二輪車は総じてタイムが厳しく設定され、さらに波状路が加わるためやはり難易度は高い。
急制動については距離は同一に設定されているが、そもそも急制動は誰がやったとしても(同じ世代の教習車であれば)普通自動二輪車の試験車両ほうが止めやすいので、やはり大型のほうが難易度は高い。
小型限定に関しては、まずスロー走行を求められる直線狭路台の通過時間が、普通自動二輪車の7秒から5秒に短縮されている。 普通自動二輪車だと「ゆーっくり」通過する必要があるが、小型限定だと「ゆっくり走れば良い」になるので、よっぽどのことがなければクリアできないことは考えにくいレベルまで下げられている。
また、急制動に関しては指定速度そのものが40km/hから30km/hに引き下げられており、それに伴って制動距離が短くなっている。 速度での必要制動距離よりも短くなった距離のほうが短いので、難易度は下がっている。まして、車両自体が軽いので「強めにブレーキ」程度で止まれる。
スラロームは時間が変わっておらず、小型限定では最も厳しい課題になる。 だが、車両が小さいため、普通自動二輪車と比べれば難易度は低め。
内容だけを見ると「大して変わらないから普通自動二輪車を取ろう」と考える人も多いのだが、難易度や所要時間を考えると結構違う。 とはいえ、乗りたい車両が125ccまでに限られているということでなければ、免許で乗れる車両の乏しさを考えると小型限定をお勧めするのは難しいが。
装備について
重要な順に書く。
- 第一に、しっかりしたヘルメットをかぶること。サイズも合ったものを選び、きちんとあご紐を締めること
- バイク用の強度のあるウェアを選択すること。バイク用品として売られていればなんでも良いわけではない。擦過に強いウェアを選択しなければならない
- 胸部プロテクターを装着すること。胸部は頭部についで死亡原因となる箇所だ。ここまでは自覚あるライダーとしての責務であると言って過言ではない
- 背部プロテクターを装着すること。背部は致命傷にはなりにくいが、下半身不随などの深刻な後遺症を残すダメージになりやすい
- レーシングブーツを装着すること。転倒時にチェーンなどに巻き込まれて足を切断するような事故はかなり多い
- バイク用パンツを装着すること。これも巻き込み防止のためと、擦過防止のため。レザー製だとニーグリップがしやすくなり、操縦性が向上する
- ネックブレース類を装着すること。運転はややしんどくなるが、こちらも深刻な後遺症を残すダメージや、骨折を防いでくれる
- スライダーつきのレーシンググローブを装着すること。私はライディンググローブをつけた状態で接触して指先を削り飛ばしているので、きちんとしたレーシンググローブでないと信用できないと考えている
- 肘・肩プロテクターを装着すること。しっかりしたものならウレタンプロテクターでもちゃんと効果はある。転倒時は肘・肩・手をつくことが多いので、これで日常的なレベルの転倒が「痛くない」ものになる
- 膝プロテクターを装着すること。ハードプロテクターが推奨される。脚の巻き込みを考えると転倒時に内側の脚は可能な限り速く抜くべきなのだが、膝プロテクターがついていると転倒時にバイクに巻き込まれないようにするために内側に向かって跳ぶ、ということができるようになる
- スポーツ用マウスピースを装着すること
- ヘルメットリムーバーを使用すること。救助されるような状況はあまり考えられないかもしれないが
車両選択
私は最初のバイクは250ccを勧めたい。
軽量であることはとにかくダメージが減るし、小さくて軽いと機動力が高くて便利で、さらにミスって前進できない道に突っ込んでしまったときのリカバリーも利きやすい(下り坂行き止まりからのリカバーは、重いバイクでは凄まじくきつい)。
十分に速く、しかしうかつなスロットルオープンで即事故にはつながりにくい250ccのパワーは自制心が育っていないルーキーライダーにはうってつけだ。 さらに、恐怖心がなく、扱いやすい車体は色々トライしやすく、バイクの楽しさや、バイクを操るコツを学ぶのにも最適。
私のバイクキャリアはVT250 SPADAから始まったが、私が今まで乗った250ccバイクの中で最も誰にでも勧めることができると感じたのはカワサキ Ninja 250Rである。素直で扱いやすく、パワーもあってツーリングにも適している。
一方、もう少し大きなバイクのほうが乗りやすい、という意見もある。 特にベーシックバイクに属するような、Ninja650、あるいはMT-07のようなマシンに関しては250ccよりも乗りやすいという意見を持つ人も少なくはない。
これはある程度正しく、自制心が強く臆病なライダーは、スロットルを大きく開け、エンジンを回して走るというのが難しい。 そして臆病なライダーにとっての敵はバイクの挙動よりも周囲の交通である。
このような条件においてはより寛容なパワーを持つミドルクラスのベーシックバイクは大変に向いている。
とはいえそれなりに車格も大きく、重量的にも重くはなるから、臆病なだけでなく体格的に恵まれていること(筋力的な意味より、股下の話である)なども条件となる。
そうした条件を加味せず一般的に推奨するなら、私は250ccを推す。
車両タイプ
現代においては明確にカテゴリ分けされる典型的なものよりも、ミックスされたものが多いから、分類は難しいところだが、主には典型的なものを挙げよう。
また、全カテゴリを説明するのは大変なので、ビジネスバイク、モペッド、モトクロッサー、エンデューロマシンなど典型的カテゴリでも紹介していないものもあるのでご了承いただきたい。
スーパースポーツ
レース向け、あるいは純粋に走ることに特化して作られたバイクである。
速いのはもちろんだが、軽量であることも特徴的。圧倒的なパワーはサーキット向けのものであり、ストリートでは完全に持て余す(小排気量モデルの場合はその限りではないが)。
スーパースポーツはある意味ではバイクの究極の姿である。 快適性に乏しく、姿勢も厳しいのでツーリングには向かないが、純粋に走りを味わうためのバイクでもある (もっとも、速いことが優先で楽しさなど二の次というバイクもある)。
歴史的に見ると特に日本においては、2ストロークの250ccモデルと、4ストロークの400ccモデルを中心としたラインナップとして「レーサーレプリカ」と呼ばれていた。 これは、2ストローク250ccモデルに関しては、当時の純コンペティションモデル(ホンダRSやヤマハTZなど)、あるいは世界グランプリ用のプロトタイプワークスレーサーモデル(ホンダNSRやヤマハYZR)を模した、あるいはそれらをベースとした(!)モデルとしてラインナップされていたのである。 レースとしては500ccレースが頂点ではあったが、それを模した400cc, 500ccのモデルというのはあまり一般的にはならず、コンペティションマシンに近づけた250ccモデルというのが流行し、だからこそ「レーサーレプリカ」なわけである。
一方、400ccモデルに関しては同様に「レーサーレプリカ」という呼称はあったが、実際にベースとなるモデルがあったものは少ない。どちらかといえばこれらはプロダクションレーサーのベースモデルであった。750ccモデルに関してはスーパーバイクレースのワークスマシン(市販車からかなりかけ離れている)のレプリカである、と言えないこともなかったが、結局のところそれもプロダクションモデルであるから、レーサーを元にして作ったというよりはレーサーの元となるものとして作った、というのが正しい。
スーパースポーツという呼称が一般化するのは、ホンダCBR900RR、及びヤマハYZF-R1の登場により、レース向けでない(出場できるレースがない)高性能バイクが登場してからである。 だが、基本的にはそれらのスーパースポーツはレースに出られるようになり、レースを前提にしたモデルとなっていることが多い。 ただ、高性能に特化したスーパースポーツではあるものの、レースを前提としていないバイク、というのも一部にはある。
ストリートファイター
単純なものではスーパースポーツモデルから単純にカウリングを剥ぎ取り、ハンドルをアップにしただけというモデルも存在する。もう少し理性的なモデルでは、軽量な車体とパワフルなエンジン、そしてアップライトなポジションを組み合わせるという図式は維持しつつ、日常域の荷重でもしなりを得られるフレームや、ストリートで過剰すぎない程度のパワーとフラットなトルクなど特性を調整したものがラインナップされる。
写真のブルターレはハンドルがかなり低い方であり、一般的にはハンドルは高めである。
ポジションがアップライトなので結果的に頭が高い位置となり、視界が開けることでストリートでの安全性を確保できる。そして、ちゃんと「見えている」状態になるからこそ気持ちよく走れる(見も蓋もなく言えば飛ばせる)というわけである。
最初から飛ばすことを考えているモデルもある一方で、より楽しむことを考えているバイクもある。 あまりにも凄まじいパワーがあったところで、ストリートでは使う機会がない。制限速度まで1秒もかからないのだから。 だからこそめちゃくちゃなパワーを求めるよりも楽しめるフィーリングを求める、というわけだ。
楽しめるフィーリングを求める、といっても、このMT-09は116ps。スーパースポーツのYZF-R1と比べれば半分よりはちょっとある程度のパワーに過ぎないが、それでも60km/hに到達するまで2秒もかからない。だが、かっ飛ばさなくても楽しみ方があるのがこのタイプである。(飛ばすこと前提なタイプはスーパースポーツと変わらないが)
また、女性全般にはカウリングつきのバイクのウケがあまりよくないので、女性ウケを気にする男性ライダー諸兄にあってはスーパースポーツよりもストリートファイターのほうがいいかもしれない。
スポーツバイク
レースのためのバイクであるスーパースポーツと違い、現実的なパワー、少しアップライトなポジション、タンデムもしやすいシート(タンデムできないシートであることもあるが)などを備えるスポーツバイクは、速く走るためではなく走りを楽しむためのバイク。
前傾タイプは以前は様々なメーカーから出ていたものの、現在はこのドゥカティ・スーパースポーツくらいしか残っていない。 この手のバイクのoriginとも言えるDUCATI SSだが、最近復活した。 一方、前傾ではないタイプのバイクが増え、特に中間排気量以下ではツーリングにも使えるマルチなモデルとしてラインナップされることが多い。
また、小排気量においてはスーパースポーツのようなスタイリッシュなモデルでも、モデル傾向としては基本的にはこのようなエンジョイモデルであることが多い。
ある程度ツーリング向けの仕様になっている場合も多く、バイクを楽しむには最高だ。
ネイキッド
ジャパニーズスタイルなバイク。基本的には1970年代、1980年代の日本の大排気量車がモチーフだ。
「大きく重い、威風堂々」がコンセプトであり、各メーカーからスタンダードなビッグバイクとしてラインナップされていたが、現在ではこのHONDA CBシリーズと、カワサキのZ900RSシリーズくらいしか残っていない。 しかもZ900RSは、前身だったゼファーとは違い、パッと見にノスタルジーを感じるだけで、中身は最新なので軽いし、速い。
ちなみに、このCB1300SF、初代のCB1000SFと比べるととっても軽くなった。 それでも十分重いが。
このカテゴリが流行していた頃は1000ccオーバークラスのモデルをイメージアイコンとして、それを縮小したような400ccモデルがあった。400ccモデルに関しては、大型モデルと同じように大きく重いバイクにするか、あるいは軽くコンパクトにしてスポーティにするかは判断が分かれ、場合によってはキャラクターの違う2モデルがラインナップされることもあった。
ベーシックバイク
ヨーロッパでは500ccから650cc程度で主に単気筒または2気筒のモデルがラインナップされており、パワーはそれほど出ないものの乗りやすいバイクとしてなじまれてきた。
これは、日本で言うところの250ccバイクに相当するような感覚であり、このクラスのバイクには初心者用としてEU諸国のA2免許1向けの47.6馬力モデルがラインナップされることが多い。
日本では90年代頃までは、独特なノスタルジックなバイクや、あるいはスポーティだけれどレースではないみたいな車両を「初心者向け」としてきたのだが、2000年代に走ると除々にグローバルな展開をするようになり、構成自体はモダンだが、あまりコストはかけないようにした「普通のバイク」が日本でもベーシックなモデルとしてラインナップされるようになった。
この功績として大きいのはカワサキで、ER-5/Ninja500というベーシックバイクはライバルと比べれば新し目ではあったものの、デビューから10年以上が経過していたものを、ER-6n/ER-6fという新しい650ccのモデルに置き換えた。 さらに、同じ方向性の250ccのモデルをデビューさせ、これを「アジア圏における上級バイク」とした上で、日本においてはエントリーモデルとしてラインナップ、さらにER-6n/ER-6fの400ccバージョンを日本で販売した。
この流れもあり、日本では「ヨーロッパで人気のある、日本では誰も見向きもしないようなカテゴリ」であった中間排気量でモダンな構成のおとなしめなバイクが、日本でも「普通のバイク」の位置づけを獲得するに至っている。
スーパースポーツを下地としたストリートファイターに対する、(スーパーではない)スポーツバイクを下地にしたベーシックバイクという形で中間排気量や小排気量向けにラインナップされることが多く、あるいはスーパースポーツをベースとしつつも日常向けに大幅にモディファイしたモデルもある。
スタイリングやバイクのキャラクターは千差万別であり、スズキはこのクラスに650ccの2気筒モデルのほか、750ccの4気筒モデルをラインナップしている。
ネオレトロ (モダンクラシック)
1960年代(主にイギリス車)や1970年代(主にイタリア車)のヘリテージモデルであることが多い、レトロな外観を持つバイク。 性能を追求するのではなく、バイクに対して「味わい」を求める車両が多く、「レトロの外観が好き」というだけでなく、「野性的なバイクが好き」といったフィーリング上の好みもある。
モチーフになるバイクは様々だが、基本的には外観や構成がレトロなだけであり、部品や機械的には新しい。 そのため、ビンテージバイクのように維持が大変ということがなく、おとなしめで乗りやすく、「バイクを感じる」という楽しみ方ができる。 積載面を考えればツーリングに最適というわけではないが、ちょっとしたツーリングには困らないようなバイクも多い。
基本的には速いバイクではないが、だからこそ過剰なスピードを出さずに走りを楽しめる、という観点から、カフェレーサーと呼ばれるオールドバイクのスポーツ向け改造車に習って、ハンドルを下げたスポーティさ優先のモデルもラインナップされることがある。
ただ、例外もある。例えばこのスズキ・カタナ。
これは1980年代にラインナップされていたスポーツバイクのスズキ・カタナのヘリテージモデルである。
雰囲気は似ていると思う。もちろん、カタナは当時のフラグシップバイクであり、レースにも出ていた。 つまり、当時のスーパースポーツなのである。 しかし、それは基本的にネオレトロなモデルはだいたいそうであり、それを現代に再現するとおとなしくて味のあるバイクになるのが基本である。 もっとも、日本のビッドネイキッドバイクがそうであったように、日本の場合1980年代の車両を再現すると、パワーは結構あって、単にハンドリングが不安定というようなキャラクターであったため、現代の基準で見てもそこそこ走るバイクになりやすいという面はある。
しかし、このニュー・カタナはそれどころではない。ベースになっているのはスーパースポーツのGSX-R1000であり、中身はまるっきりストリートファイターなのである。 つまり、この場合、ヘリテージというよりも、カタナというバイクのコンセプトを継承した「ニューモデル」ということになる。 だから、ニュー・カタナをネオレトロに分類するのはちょっと厳しいものがある。
そして、カワサキのヘリテージモデルであるZ900RSも、ベースがストリートファイターのZ900であり、純粋に速い。
ロードスター
膝から下はまっすぐ下ろすくらいの感覚になるタイプのバイク。 日本ではあまり一般的ではない。
日本でロードスターというと、VRXとか、VX800とかあるのだけれども、マイナー車もいいところである。
ポジションが結構独特なので慣れがいるのだけれど、慣れるとちょっとスポーティだけれど脚が窮屈じゃないというのは利点。 ただ、屈伸などはしづらく、お腹がつっかえやすいので楽とも言い切れない。
クルーザー
脚を前に投げ出し、腕を伸ばして乗るスタイルのバイク。
速さやコーナーリングではなく、まっすぐの道をどこまでもまっすぐ走るためのバイクだ。
以前は一大勢力だったのだが、最近は人気がないのか日本メーカーからもラインナップが激減している。 (もちろん、このタイプといえばのハーレーダビッドソンにはラインナップされているが)
このタイプのバイクは第一に「曲がることはあんまり考えてない」というのが特徴的。だから曲がるのは基本的にしんどい。 特に大きいバイクになると結構きつい。
そして、もうひとつ「ファッション性が重視されている」というのもポイント。 つまり、バイクを改造して飾ることで自分らしさを演出する、というのはこのカテゴリ特有の文化である。
バイクに対しては速さではなく、「味わい」を求める形になる。快適性があるかどうかは、車両による。
ツアラー
大容量の積載、二人乗りで旅するバイク。 当然のように大きく重く、扱いも大変だが、安定感は凄まじく、パッセンジャーがバイクに体を預けていてもびくともしない。 中にはもはやバイクと呼んでいいのかどうか怪しいモデルすらある。
この手の大陸横断級のバイクは、さすがに日本ではあらゆる意味で持て余すことになる。
スポーツツアラー
ツーリングに適したスタイルに改められたスポーツバイクがスポーツツアラー。 かつては前傾モデルをベースとしたものが多かったが、最近はアップライトなバイクがベースのものが多い。 現在、前傾モデルのスポーツツアラーはホンダ・VFR800FとBMWモトラッド・R1250RSしかない。
きつすぎないポジション、快適なシート、高い積載力、優れた防風性などが与えられ、ツーリングにおいてはスポーツバイクよりも快適なだけでなく、安定して積載できる分走りも楽しい。一般的にはオプションで車体に固定できるハードケースが販売される。 また、近年は燃料タンクが小さいバイクが多いのだが、大きめの燃料タンクが確保されていることが多く、しっかり旅するバイクであることが多い。
本格的な大陸横断級ツアラーと違い、持て余すということがなく、純粋に走りを楽しむこともできる。 また、タンデムしつつ「二人で走りを楽しむ」ということができるのも特徴的だ。
一方、積載に耐えるしっかりとした車体が必要とされることから全体的に重く、さらに大きな燃料タンクによって重心も高い。 純粋に走ることだけを考えるならば、重くて扱いにくいと感じることになる。
コミュータースクーター
市街地での走行に適した、オートマチックの二輪車。 50ccのバイクでは最も一般的なスタイルであり、日本製の50ccのモデルは日常的なお買い物や足として使いやすいように特化したものになっている。
125ccクラスのスクーターは「通勤快速」などと呼ばれることもあり、都市部ですり抜けしやすいようコンパクトながら出足が速いモデルが多い。 一方、ヨーロッパ製のモデルはヨーロッパの石畳など不安定な場所を走ることを想定して大径のホイールが採用されており、地域性が出る。
スポーツスクーター
スクーターでスポーツする、というのがスポーツスクーター。特に歴史の転換点となったのはこのT-MAXで、従来もスポーツスクーターは存在したものの、それらと比べても圧倒的に「バイク的」な走りであり、なおかつ500ccの排気量であった。
スクーターといえば足を揃えて乗るイメージだが、スポーツスクーターではしっかりとした骨を通すため中央が盛り上がっており、足を揃えることはできない。 T-MAXはその盛り上がりが特に大きく、ニーグリップできる形状になっているのでなおさら速い。
なお、スポーツスクーターと呼んでいいかは微妙だが、ストーリーファッションの一部として250ccクラスの改造スクーターがものすごく流行った時期があった。
オフロードバイク
土、泥、岩などの不整地を走るためのバイク。 土の上のコースを走るモトクロスという競技もあるが、市販オフロードバイクは基本的には山の中を走るトレイルライドのためのバイクである。
前後に長いシートは体重移動しやすいように配慮したもの。
日本ではそもそも不整地があまり残っていないので、オフロードバイク自体も絶滅危惧種。
スーパーモト (モタード)
スーパーモトはミニロードコースとジャンプもあるダートコースを組み合わせたコースを走る競技。
基本的にはオフロード用の競技車のホイールをロード用の17インチに組み換え、ロードコース用のスリックタイヤに履き替えたものを使用する。
コース自体が狭く、あまり速度が出るものではないため、公道仕様スーパーモト車、つまりは公道で販売するオフロードモデルをベースとしたロードモデルも、市街地のような低い速度域でも走りを楽しめるということで人気となった。
ただ、その人気もだいぶ落ちていて、公道用スーパーモト車両のラインナップはかなり減少しているほか、公道用のモデルはより大きなエンジンを搭載した専用のモデルとなることが増えている。
一方、オフロード車両は比較的、公道走行に適合する状態へ改造してナンバープレートを取得することが容易であることから、本当に好きな人は競技用モデルのエンデューロバイクやスーパーモト車両を入手して公道で走らせる人も多い。
バイク乗りのお約束
夏の北海道
北海道はツーリングライダーの聖地であり、夏には多くのライダーが北の大地を目指す。
夏の北海道ではツーリングのために仕事をやめてきた、という人によく出会う。
ちなみに、私も一度だけだが夏の北海道ツーリングの経験があるが、正直なところカーブのなさすぎる道と、連日の激しい雨であまり楽しくなかったという思い出である。 私はくねくね道が好きなのだ。
オマエ、バイク、ノル。オマエ、トモダチ。
バイク乗りの不思議な習性として、「深く関わることを嫌うのに、連帯感はある」みたいなものがある。
ネトゲのようだが、基本的にバイク乗りはバイクを降りた後の話はしないのがお約束であり、バイク仲間なのに名前も知らない…なんてことも割とある。 普段はニックネームやバイクの名前で呼んだりするから割と困らないのだ。
一方、サービスエリアでたまたま一緒になったライダーと元々の仲間であったかのように親しげに話したり、つまつまツーリング先で出会ったライダーとそのまま行動を共にしたりというアクションは、ライダー特有の変わったコミュニケーションスタイルである。
また、ツーリング時にすれ違うライダーにピースサインを見せるという挨拶もある。 変則として、ホンダライダーのラブバイクサイン、カワサキライダーのKサインというのもある。
ただ、こうした交流は近年急激に廃れており、サービスエリアで出会っても会話がないことがほとんどになってしまっている。
8耐
8耐は長く続くバイクの耐久レースであり、夏の祭典である。
基本的には7月最後の週末に開催され、三重県鈴鹿市にある鈴鹿サーキットにて灼熱の中8時間もの長丁場のレースを戦う。
世界耐久選手権の一戦でもあるのだが、日本のレースイベントとして成熟され、先鋭化されており、世界耐久選手権タイトルを求める海外チームでは歯が立たない。 そのために、日本のレーシングチームとコラボレーションして走るチームも最近は見受けられる。
かつては世界グランプリを走るレーシングライダーたちも集っていたイベントだが、近年はそうしたことは減った。 とはいえ、世界選手権のライダー、日本のトップライダー、そして世界の耐久スペシャリストたちが集うレースである。
ライダーは1チーム2人、または3人。 真夏の8時間にも渡るレースであるにも関わらず、先鋭化の結果最初から最後までほとんど緩めるタイミングのない、激しいレース展開、そしてその激しさ故のクラッシュなど魅力的なレースとドラマが毎年繰り広げられている。
近年はテレビ東京によるテレビ放映と、YouTubeライブによって現地観戦しなくても魅力的なイベントとして楽しむことができていたが、2018年より番組がユーロスポーツの制作となり、2019年には放映権が日テレに移ったことで、番組として面白くなくなったとの批判が強い。
峠
80年代には峠道で完全に無謀としかいいようのない走りをするライダーが跡を絶たなかった。 しかも、公道走行のできない違法なマシンをもちこんで違法な走りをする、というような状態である。
この問題はやがて沈静化したが、結果的には多くの峠道(特に関西)でバイクの通行が禁止されるという結末を招いた。
そしてこの問題は再燃する。2010年代に入ってから、中年層のリターンライダー(要は、80年代、90年代にヤングライダーだった世代である)がさらに高性能化したバイクで無謀な走行をし、峠道で事故死するということが相次いだのである。 それまで峠道での事故死があっても年間1, 2件だったところからの本当に急増である。
特に舞台となったのは奥多摩及び伊豆スカイラインという、どちらも昔そのような無謀な走りが行われていた道なのだが、警察が通行禁止にしないために無謀な走りを控えるよう呼びかける、というちょっと変わったことがあった。
ライダーが峠道を好きなのは、なにも無謀な走りをしたい者ばかりではなく、くねくね道を走るのが好きだったり、景色を楽しみながら走りたい者だったりと様々であり、無謀な走りをする者は結局のところ単純に迷惑をかけている状態にある。 そして、この問題の複雑なところは、「別に無謀な走りをしない者であっても、峠道を走るときにそこそこ速いペースで走るのは好きだったりする」ということにある。
これを踏まえて、ライダー同士で「無謀な走りをやめよう、通行禁止にならないよう我々で心がけよう」という呼びかけが行われ、それによって状況は改善されている。だが、依然として中年層を中心に無謀な走行をするライダーは跡を絶たず、綱引き状態となっている。
MotoGP
バイクにおけるF1、と表現されることのない、プロトタイプレースバイクによる世界最高峰のレースである。
F1のようなセミ耐久レースではなく、短時間で決着するスプリントレースになっている。
興行的にもMotoGPと呼ばれるのだが、最高峰のMotoGPクラスのほか、中量級のMoto2クラス、ヤングライダーの登竜門となる軽量級のMoto3クラスと3クラスで構成されている。
超高性能なプロトタイプレースバイクとレースタイヤによる走りはまさに異次元であり、「なぜ転ばないのか」と思うような走りが繰り広げられている。
ちなみに、最も深いバンク角の記録はマルク・マルケスによる70度(!!)。
バレンティーノ・ロッシ
バレンティーノ・ロッシはMotoGPライダー。
1979年生まれで、世界最高峰レースは2000年から走っている。
その名が知れ渡るようになったのはなんといっても圧倒的な強さであった。 負けるところが想像できない、というレベルで強く、ホンダライダーとして無敵を誇っていたロッシは「ロッシが速いのではなくホンダが速いのだ」などと言われることとなる。果たして、2004年にヤマハに移籍し、圧倒的な強さでチャンピオンを獲得した。
そのインパクトのあるキャラクター、長い手足から繰り広げられるダイナミックなライディングに多くの人が魅入られ、世界中にファンがいる。 つまり、例えばサッカーにおけるメッシのように、非常に特別なスーパースターなのである。 だから、その収入は飛び抜けて高く、スポーツ選手としてもトップクラスの財をなしているる
だが、そんなロッシにも斜陽は訪れる。2011年にドゥカティに移籍すると、今までの栄光が嘘のように勝利数0、ランキング7位という屈辱の結果に終わる。 ロッシがヤマハを出ていく原因となったとも言われているホルヘ・ロレンソ(1987年生まれ)やケーシー・ストーナー(1985年生まれ)といった若いライダーに押され、いよいよロッシの時代も終わりか、と言われるようになる。 結局ドゥカティ2年目の2012年も勝利を挙げられないまま2013年にヤマハに復帰するが、安定した成績を残しはするものの勝利が遠く、若いトップライダーたちの後塵を喫した。
こうして勝利が遠のくともうスポーツ選手としては高齢ということもあり毎年のように引退の噂が囁かれるようになる。 今まで武器として戦ってきた長身、長い手足も、あまりにもバンク角が深くなった現代のマシンにおいては邪魔にさえなった。
だが、ロッシはやはりスーパースターであった。 2014年にはMoto2から、新世代のスターライダーであるマルク・マルケスが上がってきた。 1993年生まれのマルク・マルケスは、Moto2時代には「最後尾からのごぼう抜き」などという、アニメかゲームかというような離れ業を達成しており、ライバルから「最後尾ではとても足りない」などと言われるほどの異次元のライダーであった。 だからこそロッシの時代ももう終わりなのではないか、などと言われたのだが、ロッシは2014年、今までの走りを捨て、新世代の走りを身に着けたのである。
2014年、マルケスと激しい戦いを繰り広げ、最終的にはランキング2位。 移行、2015年、2016年と連続でランキング2位となる。
2019年で40歳となったロッシ。さすがに衰えは隠せないのは事実である。 そして、マルケスを筆頭として若い才能溢れるライダーたちの勢いもまた事実である。 だが、それでも40歳となった今も戦い続けている。ストーナーが、ペドロサが、ロレンソが、かつて「ロッシを追い落とした」と言われた若いライダーたちが皆引退して尚である。
たくさん勝った選手、速い選手というのは他にもいる。 マルケスが今までの常識を破壊するほどに速い選手であることも事実である。 だが、これほどまでのスーパースター選手というのは他になく、ライダーにとっては「バレンティーノ・ロッシ」という名前は、とても特別に響くのである。
鈴菌
スズキのバイクは、他のメーカーと比べるとちょっと変わっている。
そもそもは特に80年代、90年代に、あまりにも特異なバイクを連発したことに起因するのだが、スズキは唐突に「変なバイク」を作るクセがあった。 そのために、「スズキのバイクは変態的だ」と言われるようになった。
だが、それ自体は近年は変なバイクというのが登場していない。せいぜい、2007年に登場したGSX1300BK B-KINGという「巨大で超パワフルすぎるネイキッドバイク」が最後であるし、そもそもそういうバイクであればBMWも同時期にK1300Rという似たようなバイクを作っていたことがある。
だが、以前としてスズキのバイクは変態である、と言われている。
もちろん、ネタとして引き継がれている面もあるのだが、スズキのメーカー的な性格もある。
それは、「やるときはやりすぎる」である。 一番明らかだったのは80年代末のGSX-R750やRG250Γといったバイクであるが、それ以降もやたら極端なバイクを出すことがある。
また、バイク自体もキャラクタが濃く、例えばGSX-R600, GSX-R1000といったバイクは、スーパースポーツといえばレース向けに先鋭化され、エンジンもシュイーンと一直線に伸びていく「回すエンジン」が当たり前なのに対し、GSX-Rはゴリゴリとやたら力強いエンジンをしている。そして、車体もやたら安心感があるタフガイなのである。 なんか遅そうな特性だが、ところがどっこいむしろ速かったりするのだから手に負えない。特にそこまで腕がないライダーが乗ると、乗りやすい分余計に速かったりする。
現状、「変わったバイク」もほとんど出なくなったのでスズキを変態と呼ぶ要素は特にないのだが、スズキの良さを知るとスズキばかり乗り続けるライダーが多いこともあり、感染性がある、と表現され、そのために「鈴菌」という言い方をされるのである。
実際のところ、使い古されたネタであり、あまり気にするようなものではない。
メーカーの表現
よく、「ホンダは優等生、ヤマハはエリート、カワサキは番長、スズキは変態」という表現がされる。
クセがなく工業製品としての質の高いホンダ、見た目にもエレガントなヤマハ、作りが粗く「機械」を感じさせるカワサキ、特徴的なバイクの多いスズキ、ということから言われるようになったイメージなのだが、実際には現在はそんなことはない。
カワサキにマイナーな故障が多い、というのは過去の話だし、スズキも特にそんな特徴的なバイクは出していない。 そして、ホンダは割と癖の強いバイクを出している。
むしろ乗り味という意味では一番普通なのはスズキである。 そして、バイクとして最もよくできているのはカワサキである。
ただ、ずっと変わらない個性があるのはヤマハである。
エレガントなバイク、というのはヤマハの特徴になっているし、何よりヤマハのバイクは気難しい。 他のメーカーよりもサスペンションをよく動かす考え方をしているため、ライダーがきちんとバイクの動きを制御することを求める傾向にある。だから、結果的には繊細に乗ることを求められるのだ。 ライダーに「ちゃんと乗る」ことを求めるバイクというのは、「ヤマハだなぁ」ということを感じてしまう。誤解を恐れずに言うならば難しい。
一方、きちんと乗った時のハンドリングの切れ味もヤマハの特徴。単に曲がるのではなく、安心感があって思い切って乗っていける。ライダーの操作を押し付けるのでなく、バイクと対話しながら走ることを求めるクセに、バイクと一体になることができれば思いっきり身を任せることができる、というのはヤマハ車のキャラクターだと思う。
技術的なことを言うと、ヤマハ車はブレーキリリースで曲がれないバイクが多い。 前輪に荷重がかかった状態を保つことでトレールを詰めておかないとあんまり曲がらないのだ。 実は私はブレーキリリースで倒しこむタイプのライダーだったので、MT-09に乗り換えたときにはものすごく苦戦した。簡単に言えばライディングスタイルと合わなかったのだが、リリースして曲がると曲がらないし、ちゃんとフロントの荷重を保って曲げると想像よりはるかに曲がるしでなかなか感覚を合わせることができなかった。